風丸が陸上部からサッカー部の助っ人に行ってからどれぐらいが経ったのだろうか。
陸上部のマネージャーをしている名無しはふとそんなことを考えた。











ー上手くやれているのか、

ーーサッカーは楽しめているのか、

ーーー他の部員と上手くやれているのか






そんな様な心配ばかりが頭をよぎる。
グラウンドに目をやっても陸上部として走る風丸の姿はどこにもいない。
サッカーをしている彼の姿を横目で見る度少し寂しい気持ちになった。

もしかしたらー


もう陸上部として走ることはないのではないのではないか、と。

名無しはそんなことを考えると風丸が サッカーをしている姿を自分の目ではしっかりと見ることができなかった。


いつも横目でその現実から背けるかのように。


でもこのまま逃げてはいけないとは名無しも分かってはいるのだ。
自分の本心をどうにか聴いて欲しいと。
勿論、我侭だとわかっている。

好きだからこそ苦しい。

想うほど辛い。









名無しは意を決し風丸の部活終まで待つことにした。
後少し、後少し、終る迄が長い。
緊張で胃の中の物を吐きそうだ。
うるさいくらいに心臓の音とざわつきが耳に張り付く。
そっと握っている拳に汗が溜まっていく。




どれぐらい経ったのだろうか。
気がつけば部活も終了し皆が帰宅を始めている。
名無しは喉から震える声を絞り出すかのように風丸を呼び止めた。

何かに怯えた様な声で自分を呼び止める名無しの姿に少し驚きながらも傍へと駆け寄る。






「名無しじゃないか。
どうしたんだ?もう陸上部の練習は終わったんだろ?」





「うん、ちょっと聞きたいことがあって....」





「まさかお前、俺に"いつ陸上部に戻るんだ"って聞くんじゃないだろうな?」




「えっ....」





まさにお見通しである。
ドンピシャ当てられ目をまんまるくして言葉を失う名無しに対して風丸は少々呆れ気味に溜息を吐いた。







「この間それ、宮坂にも言われたばっかなんだ。
いつ陸上部に戻るのか、って。
でも俺はまだここで、サッカー部で走りたい。
勿論陸上部の事は忘れた訳ではないんだ。
ーでも俺にはまだ"此処"でやらなくちゃいけない事がある。



だからお前にも見せてやりたいんだ。
サッカーをしている俺の姿を。
本当は一番先にお前に見せなくちゃって思ってたのに中々言えなくてな....。」








少し照れくさそうに微笑みながら話す風丸に
名無しは情けなさそうに泣きそうな顔をする。

ぁあ、自分はなんて馬鹿なんだろうか。
でもその反面勿論嬉しい気持ちもあった。
心の底からサッカーを楽しんでいるという風丸の気持ちを知る事ができたのだ。

すると我慢していた気持ちが溢れ出すかの様に涙が止めどなく溢れ出してきた。







「なんでお前が泣くんだよ....全く。
これじゃあ俺が名無し泣かせたみたいになるだろ?」








「だって...サッカー楽しんでなかったらどうしよう、って...」







「馬鹿、楽しくなかったら陸上部に戻ってるよ」










泣きじゃくる名無しを慰めるかの様にそっと抱き締めてやり頭を撫でる。












「...もし俺がフットボールフロンティアで優勝できたら...その、付き合ってくれ」





「うん...。 ....約束。
私ずっと、応援してるから....」















もっと伝えたいこの気持ちを。
素直に君に好きと伝えられなかったけど、これで良かったのだろう。





夢を君ともに今を駆け抜けよう。




ーこの気持ちが、少しずつ君に伝えられますように









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