ある日の夕方。
名無しは吹雪の練習が終わるまで校内で読書をしながら時間を潰していた。
殆ど誰もいない校内で静かに本に目を通す名無し。
ふと顔を上げ時計に目を遣るとそろそろサッカー部が練習を終えて帰宅をする頃だ。
(もうそろそろ、かな....?)
ぱたりと本を閉じるなり帰宅の準備をすると教室を後にする名無し。
吹雪と帰路が同じ方向の為、よく登校と下校を一緒に行っているのだ。
部活の関係の為、毎日では無いが一緒に登校をしたり下校をしたりするのがお互い密かに楽しみとしていた。
今日あったこと、
明日こんなことがあったらいいな、
そんな些細なことだけでも話が出来るだけで名無しにとっては小さな幸せだ。
そんな期待を胸に少し弾む足取りでグラウンドで向かうと練習を終えたメンバーがぽつぽつと帰り始めていた。
どうやら丁度いいタイミングでグラウンドへ出た様だ。
しかし吹雪の様子がいつもと違う。
いつもならこちらに気付いて手を振る筈が何故か背を向けたままグラウンドをじっと見つめている。
その顔はどこか悩ましげだ。
名無しは少し心配そうにそっと後ろから声をかけた。
「お疲れ様、どうしたの?
少し浮かない顔して....。」
「ぁ...名無しちゃんだ。
ごめん、ちょっと最近悩んでるんだ。」
心配をかけまいと弱々しくも微笑みながら重たい口を開く吹雪。
いつもと違った様子に少し戸惑いながらも「そうだったんだ」と呟きそっと吹雪の頭を撫でてやった。
一瞬驚くも安心したかの様に顔をすると、すぐに吹雪はほっとした顔を見せ、それを見るなり名無しも安心したかのようにそっと微笑みかける。
「何か不安なことでもあったの?」
「...僕は白恋のエースストライカーとして本当にやって行けるのか、が心配なんだ。
なんだか最近イマイチ自信がなくて....」
「そんなことないよ。
吹雪くんは白恋の立派なエースストライカーだよ。
練習だってあんなに頑張ってるし....それに
私は吹雪くんのプレイスタイルは凄い好きだから....。
だからもっと自身を持って欲しいんだ」
「そっか....ありがとう。
君がそう言ってくれると僕も嬉しいよ。
なんだかスッキリしたかも」
自分のプレイスタイルが好きだと言ってくれたことにとても嬉しそうに頷く吹雪。
ああ、そうだ、自分は一人なんかじゃない。
何も迷うことはないんだ、と。
土砂降りの雨も、強い北風も、全部受け止めて、輝く風になろう。
僕を、支えてくれる君のためにも