夕日も大分沈んだ頃。



放課後のグラウンドで一人佇む名無し。
今日もまた、いつものように嫌がらせをされたのだ。
悔しさに唇を噛み締めてボロボロにされた荷物を投げそっと座り込む。
お日さま園でも一人ぼっち、学校でも一人ぼっち。




─自分に居場所なんてどこにもない。




いっそこのまま死んでしまおうか。自分を必要とする人間なんてきっといないのだから。
だがそんなことばかり考えているだけで本当は怖くて死ねる筈なんてないのだ。


























「私に…この世界にいる価値なんてあるのかな。」





























そう思わず呟き空を見上げると空が寂しそうにしている。
少しだけ肌寒い風が頬を触れる。何故かその風が自分を慰めている気がした。でも何処か刺さるような風だ。
"死ねない臆病者"とあざ笑うかのようにも感じたくらいだった。
頭の中を掻き回されるような気分に少し顔を歪める名無し。

地面に乱雑に投げ捨てた荷物を持ち、そっと土埃を払うと俯いたまま学校を出る。
校門に誰かの気配を感じた名無しは少しだけ睨みを効かせた目でその人影を睨む。



















































「名無し、今日もまたボロボロにされたのかい?」































「…もう来なくていいって言ったじゃないですか。
…私は…貴方に心配されたくない。」













































心配そうにするヒロトに背を向け不満気な口調で言う名無し。
自分の身を保護してくれているとは言えど名無しにとっては自分だけが特別扱いされているのではないかという気がしてそれが嫌で仕方なかった。

普通であれば親のように心配されているのだと感じるが親からの愛情を知らない名無しはそれがどうしても理解できない。

ヒロトからすれば周りの子供たちと同じように幸せになって欲しいと思うものだが、しかし本人がそれを嫌がるのだから無理強いはせられない。


































「俺は名無しに他の子供たちと同じように幸せになって欲しいと思っているんだ。だから放って置く訳にもいかない。
…それに君はいつもただの怪我だと言うけど本当は違うんだろう?隠してるつもりなんだろうけど俺の目は誤魔化せない」






























「私ヒロトさんのそう言うところ嫌いですよ…私の親でもないのに…。
そういうの…私は貴方に心配されたいとなんて思ってもいない…。」


















自分がどうしてお日さま園に連れてこられたのかも名無しは聞かされていない事に関しても不満を感じていた。きっと自分は親に捨てられたんだと。
親から愛情を注がれずに育った名無しは大切にされることや愛されることに抵抗を感じていた。
─それを本当は言わなくてはならないのに、言えない。

しかしヒロトもそれはわかっていた。自分も同じように幼い頃から親がいない境遇は痛いほどわかる。
愛され方がわからなくてきっと戸惑ってしまっているのだろう、と。

きっとこのまま放っておけば自分を見失ってしまうかもしれない。














































「とにかく、今日は少しうちにおいで」
















































「で、でも…。」










































「ここで話してても仕方ない。
きっと名無しの言いたいこともあるだろうからゆっくり話を聞くよ。
だからうちにおいで」

















































「わかりました」













































名無しはそう言うと少し重そうな足取りでヒロトの家に向かうことにした。

家に着くなり少し緊張した様な様子で辺りを見渡す名無しの緊張を解すかのように笑いながら頭を軽くポンポンと叩くヒロト。
年上の男性の家に上がったのだから緊張するのも無理もない。それに促されるように座る名無し。
ヒロトは名無しと対面する形で正面に座った。




































「名無しにちゃんと話さないといけないなと思ってね。君は自分の両親に捨てられたんだって思っている様だけど本当は病気で亡くなってしまったんだ。
亡くなる間際にうちで引き取ろうってことになっていてね、その時にこう言われたって聞いたよ。
「どうかこの子を幸せにしてやってほしい」と。だから俺は君の親御さんの願いを叶えたかった。

元々俺も名無しと同じように身寄りのなかったから気持ち的にはわかっていたんだけどさ...なんか申し訳なかったね」




















名無しの親からの願いを叶えたいという気持ちを伝えることが出来ていなかった自分に不甲斐なさを覚えたのか少し情けない顔をする。

















































「…いえ、私の方こそごめんなさい。
別にヒロトさんが悪いわけでもないのに責める様な態度を取ってしまって。
でも、私本当は凄く嬉しかったんです。本当の親の事なんてもう覚えてないけど、ヒロトさんが親みたいに接してくれることが…。
ごめんなさい。素直に受け止められなくて」









































「無理もないよ、きっと気持ちは複雑だっただろうしね。
でも俺は君を見捨てたりは絶対にしない、…もう君は独りじゃないよ」














































「はい、ありがとうございます」



























































ようやくその居場所を見つけられた気がした。




─もう自分は一人ぼっちじゃない。



















































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