いつだって素直になれないまま。
だって素直になれないのは君のせい。
「おはよう、名無しサン?」
「…。」
昇降口で名無しに声をかけるマサキ。しかし返答はない。
そう名無しは自分の事を弄り倒してくるマサキの事が苦手なのである。
勿論悪意があって名無しの事を弄り倒しているわけでもない。
自分がもう少し素直になればそんなに鹹かったりすることもないのはわかっている。
…わかっているけどもどうしても素直になれない。
自分が意地を張ってるから嫌がらせされているんだと感じられていることをマサキは分かっていた。
でも素直になるのが嫌でつい意地を張って意地悪をしたり揶揄ってしまう。
日頃の行いの所為で誤解を解こうにも中々ろくに話も聞いてもらえない始末になってしまったようだ。
しかしこのまま口も聞いてもらえないままになってしまうのも嫌だ。
なんとかして名無しの誤解を解こうとマサキはめげそうな心に鞭を打つかのように決意をし詰まりそうな声でマサキを避けるかのようにスタスタと歩く名無しに話しかける。
足を止めて振り返る名無し。しかし顔が怖い。
マサキはその顔に思わず蛇に睨まれた蛙の様に強ばる。
「あ、あのさ…名無し…。俺なんか誤解させてるかもしれないんだよね…。
…別にお前のこと嫌であぁいう態度取ってるわけじゃないんだよ。」
「…。じゃぁなんであぁ言う態度取ったりするの?」
「そ、それは…なんていうか名無しの事気になるし仲良くしたいって言うの?
…だからついちょっかい出したくなるっていうかなんていうか。
…というか別にお前興味なさそうだもんな、俺のこと。」
はぁとため息漏らしに明後日の方向を見つめるマサキ。
そんなマサキを見て少し考えたあとロクに自分のために口を一切開こうとしなかった名無しがやっと口を開いた。
「ううん。別に私狩屋くんに興味がないってわけでもないの。
ただ無駄にちょっと変なタイミングでからかってきたり変な意地悪が頻繁だったから、そろそろ疲れるしあんまり関わるのやめようかなって…。
でも私と仲良くしたかったんでしょ?」
「あ…。そう言われればそうだな…。うん。」
少し照れくさそうに小さく頷くマサキ。
その様子を見るなり名無しはいつもの仕返しと言わんばかりにマサキにどうして自分と仲良くしたかったのかという質問をぶつけてみた。
「え?なんでって…俺コッチに転校してきて何もわからなかった俺に色々教えてくれた名無しに感謝してるんだぜ?
だからさ…お前となら少し仲良くできるかな、って何言わせてんだよ…。」
「うん?仕返しだよ。いつもの」
「っつたく…本当お前には狂わされるなぁ…。」
口ではそんなこと言うけどマサキは内心は嬉しくてたまらなかった。
これで少しまた君に一歩近づいた気がした。
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