辺り一面雪の積もったグラウンドで懸命に自分の必殺技の為に練習をする雪村。
不安定な足元に上手く体を動かせず苛立ちを感じながらも体の芯まで凍りそうな体に鞭を打つかのように体を懸命に動かす。

しかし思った様に体が動かず思わず苦悩の言葉が漏れる。









































































「くそっ…。こんなんじゃ俺だけの必殺技はいつになっても作れない…。
吹雪先輩と約束したのに…。」










































「あ、やっぱりここにいたんだね。」


















































「なんだ…名無しか。
邪魔すんなら向こう行ってろよ、お前に構ってる暇無いんだからな」
















































「もうすぐそういうこと言うんだから。
吹雪さんが心配するよ?ほら温かい飲み物でも飲んで少し休んだら?」






























むすっとした顔で名無しから飲み物を受け取る雪村。
冷気で底冷えした身体に暖かさが染みてくる。
対した温度ではないがやはり外が寒いせいか飲み物が少し熱く感じるくらいだ。
雪野降り積もったグラウンドにそっと腰を下ろすと名無しも隣に腰を下ろす。
相変わらず雪は降り止みそうにない。

名無しは真っ白になったグラウンドをじっと見つめながらそっと口を開いた。


























































「雪村くんは…サッカー楽しい?」










































「楽しい、か。うん。コーチが吹雪先輩になってからかな、全力でサッカーできるのが楽しいって思えるようになったの…。
前まで他の奴らと馬が合わないというか何て言うかさ…よくぶつかり合ってたし」




























「そっか、でも私もね、雪村くんが今サッカー楽しんでる姿見てるのすごく楽しいよ。
…だってすごく生き生きしているんだもの。」




























































勿論雪村自身も別に前から全力でサッカーをしていなかった訳ではない。
ただチームメイトと上手くいかずぶつかることもあり本気で楽しむようなサッカーができず少し不満を感じていたのだ。

そんな雪村を名無しはずっと心配で仕方なかった。

─彼が心からサッカーを楽しんでいるのか、
─サッカーで生き甲斐を感じ入るのか、

など。


そんな事聞いても雪村の性格的に教えてくれるはずもないと思っていた。
むしろこんな事を聞いたらまた"余計なお世話だ"と怒られてしまうだろうと感じていたくらいだ。




















「吹雪さんがコーチになってくれて私も安心してるよ。
だって凄く雪村くんのことよく見てくれるし…。
それに吹雪さんもサッカー上手くてかっこいいから凄く私憧れる…。」
















































何故だろうか。楽しそうに吹雪の事を話す名無しに少しだけ複雑な気持ちになった。
確かに自分も憧れる先輩なのだから気持ちはわかる。
だがしかし何故だろうか。

モヤモヤと複雑な気持ちがこみ上げてくる。
…自分のプレーではダメなのだろうか、と。

別にそう言うことは前は特に気にしてもいないはずだった。
なのに


名無しが吹雪の事を楽しそうに話すのが気に入らない。
そのことが顔に出たのか心配になった名無しが声をかける。


















































「雪村くんどうしたの?なんか顔元気ないよ?」























































「別に…」











































「…それならそんな顔しないでよ」

































「嫌なんだよ…。お前が楽しそうにそうやって先輩のことを話すのが…。
俺は…ずっとお前の中では一番でいて欲しかったんだよ。なのに…。
やっぱあの人は越えられないんだな…。」

















































「雪村くん…。そのごめん…。私」








































































「いいんだ、悔しいのはわかってるのにあの人は越えられないのは俺もわかってるんだ…。
これじゃぁ俺いつになっても二番だよな」




































































少し寂しそうに話す雪村の手をそっと握る名無し。
身体が冷え切っていたのか手が冷たい。
先ほど体を動かしていたのが嘘のように冷たいその手を優しく握り真っ直ぐ目を見つめた。

少し気恥ずかしくなったのか雪村は軽く唇を噛み締めて俯く。

























「…ごめんね。でも私頑張ってる雪村くんのことは誰よりも応援してる。
吹雪さんは良き先輩としてすごく憧れるけど、私には今こうやって頑張ってる雪村くんが一番だと思ってるし…ごめん、私何言ってるんだろうね…元気付けてあげたいなって思ってるに変なこと言ってる。」













































「いいんだ…。俺もなんか一人で突っ走っちゃったっていうか何て言うかさ…。
と、とりあえずさっきの忘れろ...!!!!!わかったな?!」






























「え、でも…。」






























「い…いいから忘れろ」




























一方的に突っ走った自分に恥ずかしくなる。
勢いで何ていうことを言ってしまったのだろうか、顔だけが熱い。



─あぁきっと今情けないくらい真っ赤なのだろうな。




でもそっと握られた名無しの手を振り払おうとはしなかった。
どうせならこのままの方がいい。
そう考えるなり雪村はぎこちなく握られた手を握り返す。
























































「な、なぁ…名無し」



























「...何?」




































「そのさ、もう少しだけ手…繋いでて手もいいか?」

























「うん、いいよ…?」


























































─もう少しだけ、二人しかいないこの時間を独占したい。
そう思いながら愛おしそうに名無しの手を握った・





































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