─嘘つきって呼ばれたって構わない。
俺は誰も信用なんてしないのだから。
別に誰からも信用されなくてもいい。
別に…誰も…。
そう思っていた筈だったのに。
狂ったのも全部、お前の所為。
「狩屋くん!また朝練遅刻してるでしょ!
ヒロトさんに怒られても知らないよ?」
「うるせーなぁ。別に遅刻したっていいじゃん。来てない訳じゃないんだし?
どうせ皆俺のこと信用してないんだし?テキトーにやっとけばいいじゃん。
なんでお前に一々言われなくちゃいけないんだよ、余計なおせっかいだっつーの」
「またそういう弄れたことばっか言って…。
そういうことばっかり言うから疑われるんでしょ…?少しは自覚しないと…」
「お前ほんっと一々うるさいやつだなぁ」
名無しとマサキは同じお日さま園出身だ。
マサキが入ってきた頃に同時期に両親を事故で亡くし、身寄りのなかった名無しもお日さま園にやってきた。
中々周りと打ち明けられないマサキのことを気遣い少しずつではあるものの人に心を開けるように優しく接していたりしたが、それでも中々マサキは人のことを信用しようとしなかった。
勿論名無しにも中々心を開くような素振りを見せようとしなかったのだった。
「ったくお前本当相変わらずだよな〜。
本当転校して来てビビってことってお前が全然変わってないってことに。
…でも正直変わってなくて嬉しかったよ」
「え?」
「なんてそんな事言うわけねーじゃん。
相変わらず騙されやがんの。ホント名無しって馬鹿だなー」
小馬鹿にしたように笑うマサキ。
しかし名無しもマサキがまたからかっているんだという事はすぐにわかった。
どんなときでも人を素直に褒めたりしないマサキを見ていればすぐに分かることだ。
しかしそんなマサキが突然転校して来た事に対して名無しは驚きを隠せなかった反面少し嬉しいという気持ちもあった。
またいつもみたいに馬鹿できるんだな、と思うと少しだけ嬉しかったのだ。
「でもね。私はマサキが雷門中に転校して来るって聞いたときはすっごく嬉しかったんだよ?
また、こうやってマサキが私をからかって来たりして一緒に馬鹿なことできるんだな〜って思うとちょっと楽しみだなって思った」
「は?何それ。変なの。っていうかホントかよ?
どうせお前も俺をからかってんだろ?」
「からかってなんかいないよ?本当だよ?」
驚いた様な顔で名無しを見るマサキ。
てっきり自分も同じようにからかわれてるのかと思っていたからだ。
自分はあんなに小馬鹿にしたように名無しをからかうのに…
どうしてなのだろう。
「お前といるとホント嫌になるぜ。
…なんていうか調子狂う」
名無しから目線を逸らすマサキ。
いつもは勝気なマサキの様子がどこかおかしい。
さっきはあんなに強気でいたマサキが珍しく黙り込んで俯き気味だ。
そんないつも見れない一面に名無しは少し楽しそうに笑いながら頬を小突く。
「なんだよ…名無し」
「ん?さっきの仕返し」
これだから調子が狂う。
嘘を言っても本当のことしか言ってこないお前が大嫌い。
大嫌い。
でも
悪戯っぽく微笑む名無しに何故かドキッとして
少しだけいいかなって思った自分がいた。
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