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ポツポツと放課後のグラウンドに雨が降る音が静寂の中聞こえる。
忘れ物を取りに来た天馬は雨が降り止むのを一人昇降口の前で待っていた。
しかし中々降り止みそうにない雨に一人ため息を漏らす。
「はぁ〜なんで俺忘れ物しちゃったんだろ…。
しかも雨降ってきちゃったし傘なんて持ってないよ…。どうしよう〜…。
秋ネエ迎えに来てくれないかなぁって無理だよな〜…。」
ブツブツと独り言を漏らす天馬。
忘れ物を取りに来たのはいいがいざ帰ろうとした矢先に予想もしていなかった雨に襲われたのだ。
小降り程度の雨なら少し位濡れながら帰っていいが流石ににわか雨レベルの雨では傘なしでは帰れそうにない。
流石に放課後だとは言えどもう夕方前だ。
知り合いもいる筈がない。置き傘でも借りて帰ろうと思ったが置き傘も置いていない。
「仕方ないし止むまで待つしかないかなぁ…。
誰か歩いてればいいんだけど…流石に今日は部活ないから先輩もいないし。」
降り止みそうにない空模様をじっと見つめる天馬。
誰もいないグラウンドには静かに雨の音だけが鳴り響く。
雨宿りを始めて30分くらいが経過した頃だろうか。
傘を持った一人の少女が声を掛けてきた。
「松風くんどうしたの?そんなところに一人で…。」
「名無し!俺忘れ物取りに来たのはいいんだけど雨降っちゃってさ…。
傘持ってなくて帰れなくなってたんだ、あはははは...。」
「私今から帰るところなんだけどよかったら一緒に帰らない?
松風くん、傘ないんでしょ?こがらし荘までは通り道だし良かったら送っていってあげるよ」
「えっ?!いいの?!やったー!!!
これで濡れずに帰れるぞー!ありがとう!名無し!!」
ようやく濡れずに帰れるとわかるなり途端に元気になる天馬。
昇降口を出ると相変わらず雨の勢いは収まることなく降り続いている。
傘に付いた水滴を落とし再びばっと広げると二人でその傘の下に入る。
ぽつぽつと雨の水滴が傘に当たる音が聞こえる。
名無しは天馬が少しでも濡れないようにと傘を少しだけ天馬に寄せて傘を差した。
それに気づいた天馬が傘の位置を戻す。
「名無し、濡れちゃうよ。
もう少しちゃんと傘に入らなきゃ」
「で、でも、松風くんが濡れちゃうよ?」
「俺はいいんだ。だってこれ名無しの傘だし俺は入れてもらってるだけでもありがたいしさ。
それに名無しが風邪惹いたら名無しが自分で傘を持ってきた意味が無くなっちゃうよ。」
「そっか…。ありがとう、松風くん。」
なんだか少し気恥かしそうに微笑む名無しにぎこちなく微笑む天馬。
二人は気まずくなったのかそれっきり会話を交わすことなく只ひたすら歩き続ける。
聞こえるのは雨で濡れた道を靴で踏む音と、傘が雨の水滴を打ち鳴らし、地面を濡らす音だけ。
だけど何故か自分の鼓動がすこしうるさく聞こえる気もした。
なんでもないのに少しドキドキしてしまう自分がいる。
木枯らし荘までの道のりが少し長く感じた。
いつもならあっという間なのに…。どうしてなんだろう。
そんなことを考えているうちに木枯らし荘に到着した。
雨も気づけば止んでいた。
「あ、ありがとう。名無し。
雨も止んだみたいだし。なんとか濡れずに済んだよ」
「いいえ。松風くんとゆっくりお話できたし…。
今日はありがとうね」
「うん、じゃぁまた明日!」
天馬を送り一人で歩く帰路の空。
気づけばすっかり空も晴れて空には虹がかかっていた。
自然と空を見上げると心地よい風に思わず笑みが溢れる。
まるで君のような優しい風。
─おかげで雨が少し楽しみになった。
また君に会える、そんな気がした。
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