名無しは料理が凄く苦手だ。
どれくらい苦手かと言うと犬も猫も逃げていくレベル。
目玉焼きも卵焼きも苦手というか作れない。
お味噌汁も作れないし、おにぎりも握れないとてつもなく酷い状態である。

イナズマジャパンに来てみんなにお昼作ったりする機会が増えたけど名無しにとって凄い地獄だ。
そんな今日は名無しと春奈で料理をすることになっており物凄くブルーである。













































































「今日は私たちでお昼作りましょうね!
名無しさんでも作れるようなメニューにしましたから!」




























「あ、ありがとう…。春奈ちゃん。
でも私おにぎりも作れないんだよ?大丈夫かなぁ…。」



















「大丈夫です、今日はおにぎりなんで!」


















「ね、ねぇ私の話聞いてた…?
おにぎりも握れないって今言ったんだけど…。」





















おにぎりすら握れないのに何が作れるのだろうと言うのは自分でもわかってはいるけれど、やはりそれすら作れないとなるとおにぎりですら作るのがとても億劫に感じるのである。
勿論名無しも何一つ努力をしていないというわけではない。
自分なりに色々と得意になる様に努力はしたつもりだ。
本を読んだり、秋や春奈にもコツを聞いたりと色々手は施した。
しかしそれでも中々得意にならないのだからきっと自分には才能がないのだろう、そう思い込んでいた。













































「名無しさんのお料理、私はまだ食べたことないから不味いとか美味しいとかはわかりません。
でもきっと努力すれば誰か一人くらいは認めてくれると思うんです。
だから頑張って作りましょう!」






















「う、うん。
私今日は頑張ってみるよ。」







































そう言うが名無しは未だ誰ひとりとして自分が作った料理を食べさせたことはない。
何度も何度も自分で作って味見をしたくらいだが冷や汗が出るくらい酷い味だった。
だから、もう人には食べさせたくないと心に決め込んだ。
かなり大袈裟な話だがこんなものを食べさせて死者でも出たらどうするのだろう。
…死にはしないけどもしかしたら体調を崩してしまうかもしれない。

しゃもじを握り締め炊き上がった白米を見るなりじとーーっと考え込んでしまう名無し。
そんな名無しを後押しするかのようにそっと背中を叩く春奈。























































「ほら名無しさん!頑張りましょう!
ゆっくりでいいので少しずつ慣れていきましょうね」



















































「うん、頑張らなきゃ…」
































































しゃもじでそっと白米を掬い、水で濡らした掌に乗せる。
炊き上がったばかりのいい香りと温かい感覚が掌に伝わってくるのがわかる。
しかしどんなに握っても形のいいおにぎりなんて作れない。
不格好で歪なものばかりになってしまう。

(あぁ、私にやっぱ料理なんて無理なのかな。)

どうしてもマイナスなことばかり考えてしまう名無し。


難しい顔をしながら悪戦苦闘をする名無しの様子にたまたま食堂に忘れ物を取りに来た緑川がその様子に気づき声をかけてきた。









































「何でそんな気難しい顔してるんだよ」




































「み、緑川くん…。
ううん、上手く握れなくて私って才能ないのかなぁって思っちゃって。」






























「俺は別にそんなことないと思うけどなぁ。
っていうか名無し、おにぎり綺麗に握れなくちゃダメとか思ってるんじゃないの?
形はどうでもいいってわけじゃないけど、名無しは形より大事なものの事を忘れてる。
なんだと思う?」



















































「なにって…。美味しくすること?」









































「そう。愛情と気持ち。名無しが今言った気持ちもだけど愛情も大事。
美味しくするなら愛情と気持ちが大事だと俺は思うんだよね」






















緑川に何気なく言われてはっとしたような顔をする名無し。
そっか、自分は綺麗に作ることが全てだと思ってたんだ。
だから作れないと思い込んでしまった気持ちによっておにぎりも美味しくなくなるんだ、と。

形どうこうではなく、頑張った気持ちと愛情。
































「そっか、愛情と気持ち…。
わかった、お願いがあるんだけど緑川くん、少しだけ待っててくれる?」


























































「うん?別にいいけど…。」




































そういうなり名無しは不慣れながらもおにぎりを一生懸命に握り始めた。
形なんていい、せめて少しでも、それが美味しくなってくれれば…。
数分後、少しだけ歪なおにぎりを持った名無しが厨房から出てきた。




































「これ、ちょっと食べてほしいなって…。」










































「うん、わかった」



















































少し硬った顔で自分の作ったおにぎりを食べる緑川を見つめる名無し。
握ってる最中は勿論一生懸命美味しくなれ、美味しくなれ、と暗示はかけたつもりだ。
しかし愛情を込めて作ったとは言えどやはり今までの自分の成果などを思うと不味いと言われるに決まっている、とどうしてもマイナス思考になってしまう。
これで不味いと言われたらもう二度と作らないと決めようとしていたその矢先だった。

















































「あ、このおにぎり…美味しい」













































「ほ、本当…?!」









































































「うん、美味しいよ。名無しの作ったこのおにぎり!
形はまだまだ練習が必要だと思うけど、味はバッチリだよ。」
























































「そっか…。よかった…。緑川くん、その…ありがとう。
きっと教えてくれなかったら私また同じ風に作れなかったかもしれない。
…私今度から頑張る」































































「ううん、いいよ、それぐらい。
むしろ俺余計なこと言ったかな〜とか思ったけど名無しがそれで元気になってくれたからよかったし、名無しが作ったおにぎりも誰よりも一番先に食べれたし満足したよ。
じゃぁ俺はまた練習戻るからまた後で食べに来るよ、おにぎり」


































そう言うなりニッコリと微笑みながら手を軽く振り食堂を出て行く緑川の背を嬉しそうに微笑みながら見送る名無し。
この一件から名無しは料理ができるようになりどんどん色んなものを作るようになった。
どの事を誰よりも先に緑川へ報告をすると自分のように喜んでくれた。

とある日。

あの日と同じように名無しはおにぎりを握る。勿論特別に。



君が教えてくれた

愛情と気持ちという名の最高のレシピで。




































.
















「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -