「実淵くんと葉山君。赤司くんにもあんな感じのお友達がいたんですね。なんだか意外でした」
「…………」
キッチンに立つ私は食器洗い機が綺麗にしてくれたお皿たちを食器棚に戻していく。その場所から見えるダイニングテーブルに座る赤司くんは文庫本を片手にコーヒーを飲んでいた。
この光景はいつものこと。しかし、今日の赤司くん……というよりもお友達が帰ってからの赤司くんはどことなくぼーっとしているように見えた。
今だって文庫本を手にしてはいるが、そのページは10分以上進んでいない。ただ、コーヒーばかりが減っていくのだ。
「赤司くん、なにかありました?」
「なぜ?」
「なんていうか、さっきから赤司くんの心ここにあらずって感じなので。今なら赤司くんに何をしても怒られることはなさそう……」
「…………」
「赤司くん?」
やはり何かおかしい。
もしかして実淵くん達と喧嘩をしてしまった、とか? それともどこか体調が悪いとか?
「ねえ、名前」
「はい?」
赤司くんとキッチンカウンターを挟んで向かい合った。その声はいつものように自信に満ちたものではなく、自分でも納得がいかないのだけどと前置きをするように落ち着いていた。
「君は僕のことをどう思っているのか聞かせてほしい」
「え…………?」
10秒経っても理解することができなかった。
こんなことは、誰かに好意を寄せている人がその意中の人物に聞くものだと私は把握している。
だとしたら赤司くんは私のことを……、いやいや、いくらなんでもそれはない。じゃあ、どうしてこんなことを聞くのだろう。
「…………」
「今後のことに関わるものだから、黙秘は認めない」
左右の色が異なる不思議な瞳に捉えられて、彼から目を逸らすことができなかった。
今後のことに関わる、というヒント……。これを今後の『私と赤司くんの雇用関係に』関わること、と仮定すれば、きっとこの質問は私の使用人としての適性を見るための抜き打ち審査に違いない!
それならば、私の答えは決まっているも同然なんだと思った。
「赤司くんは私の雇主であり、私のご主人様です!」
「は…………?」
「え?」
自信満々に言い放った答えを聞いた瞬間、赤司くんは大きく目を見開いた。
そして、ここまではっきりと表情を浮かべたところは初めて見たと言っても過言じゃないくらいに、一瞬のうちに眉を寄せ、冷たい視線を私に向けた。
「なるほど、雇主……ね」
「あの、間違っていません……よね?」
「君の言葉に嘘偽りがないのはわかった」
「赤司……くん?」
おかしなことを聞いて済まなかったと謝罪した赤司くんは私に背を向けてリビングを出て行ってしまった。そして、遠くから赤司くんの自室のドアが閉じる音が微かに聞こえた。
残されたリビングの静寂が耳に痛い。
最後に見せた赤司くんの表情はあまりにも冷たかった。こんな表情もできるのだと知った恐怖と、謎の不安感が私の中で渦巻いていた。
ご主人様と私の関係とは