「あっぢい……! 山の中だから涼しいと思ってたけど、バスケしてるとやっぱすげー暑くなる」
「黄瀬くん、お疲れ様。はいこれ、ドリンクね」
「あ、ありがとっス……!」
練習着の首元の部分をパタパタと動かして火照った身体を少しでも冷まそうと思った。その時、背後からかかった声に振り向くと、ドリンクボトルを笑顔で差し出す名前先輩がいた。
熱中症で幻覚が見えている……なんてことはなくて、この名前先輩は間違いなく本物だ。名前先輩を合宿に呼んでくれた森山先輩に何回目かわからない感謝の言葉を心の中で呟いた。
「それにしても、ものすごい練習量だね。運動してない私まで暑くなるくらいに体育館の熱気がすごいもん……」
「そーっすね。インターハイまであと少しっスから」
「そっか。それって全国規模の大会なんだよね? なら、その大会に向けて頑張るみんなのために、私も今回の合宿お手伝い頑張らないと!」
小さくガッツポーズを作った名前先輩は「黄瀬くんも頑張ってね」と微笑む。
その笑顔がどれだけオレの力になってるかなんて先輩は知らないんだろう。少しむず痒い気もするけど、今はまだオレの気持ちを伝えるには早すぎるから、それはそっと胸の奥にしまっておくことにした。
「ありがと、センパイ。あー、そういえばセンパイはどうして合宿の手伝いを承諾してくれたんスか? だってセンパイは受験生でしょ?」
「んー、確かにそうなんだけど、森山くんにどうしても来てほしいって頭下げられたら断れなくて」
「え?」
「合宿のお手伝いを公募したら黄瀬くんのファンが殺到してオレの夢の合宿がぶち壊しだ。だから、信頼できる私に来てほしいって」
「うわ……」
森山先輩ってばなんて頼み方してんスか!
つか、あの人は自分のために名前先輩を呼んだんじゃ……。
「ふふ、森山くんらしいよね。あとは今までだってちゃんと受験勉強はしてきてるから、夏休みのちょうどいい息抜きになるかなって思ってるの。高校最後の夏休みが勉強だけなんてつまらないから」
「なるほど……」
「とにかく私も、他のお手伝いメンバーもちゃんとお仕事するから安心して?」
「うん。それじゃ、4日間よろしくっス!」
「ん、了解!」
先輩はニッと笑って可愛らしい敬礼ポーズをした。それを見た瞬間、くらりと目が回りそうになる。先輩と同じ場所に寝泊まりできるなんてラッキー!としか考えていなかったオレは、ことの重大さを甘く見ていたらしい。
先輩の可愛さにノックアウトされることなく4日間生き残れるか。そんなサバイバル合宿がついに始まった。
サバイバル合宿開始!