7月ももう下旬になった。名前先輩と出会ったのが6月の中ごろだったから、あれからもう一か月以上経ったのかとしみじみと考える。
 その間に先輩とたくさんのことがあったような気もするし、これだけじゃ足りないとも思ったりする。

「それで夏休み中の合宿のことだが、今回は……」

 そうだ、あと少しで夏休みだ。最悪の場合名前先輩と一か月も会えないことになる。見落としていた絶望に背中がぞくりと粟立った。
 やばい……。このままだとオレの高校初めての夏休みはバスケだけで終わってしまう。それも悪くはないけど、でもやっぱそれじゃダメだ。

「おい黄瀬、話聞いてんのか!」
「えっと、夏休みの合宿がなんとかかんとか言ってたような……」

 笠松先輩が怖い顔でオレを睨んだ。あははと苦笑いしてみてもごまかせるわけがなくて、部室に置いてあった空き缶が容赦なく飛んでくる。

「ちゃんと聴いてろ馬鹿! 今回の合宿は夏休み入ってすぐ。ちなみにいつもの民宿を借りた。んで、合宿中に食事等を手伝ってもらうメンバーについてなんだが」
「笠松センパーイ、手伝いってなんスか?」
「それはだな、黄瀬!」

 オレは笠松先輩に尋ねたはずなのに、隣に座っていた森山先輩が意気揚々と立ち上がってまるで演説をするみたいに話し出した。

「知っての通りオレたち海常バスケ部にマネージャーはいない。しかし、夏の合宿といえば練習のみならず女の子との甘酸っぱい思い出も作るべきだと思わないか? 思うだろう?」
「はぁ……」
「そ、こ、で、だ!」

 どんどん勢いを増していく森山先輩が机をバンと叩いて皆の注目を集める。
 森山先輩は演説のプロなのかもしれないなんてふと考えてしまった。

「今年は部員全員がバスケに集中できるように、という名目でオレの人脈を駆使して女の子数人を合宿に招待することに成功したのだ!!!!」

 おお〜! なんて部員の感嘆の声が部屋中から聞こえてくる。
 まぁ確かに男だけってのもつまらない気がするけど、オレ的にはぶっちゃけどうでもよかったりする。

「すっげー! も(り)やま先輩さすがっす!!!」
「ま、まぁそういうことだ……。つーことで、今年の合宿はあんま浮かれんじゃねーぞ!」

 再び笠松先輩が合宿の詳細についての説明を始めた。そして、名(?)演説を終え、いい仕事をしたと言わんばかりの森山先輩がオレの隣に座る。

「なんだ黄瀬。せっかく俺が最高の合宿をセッティングしてやったってのに嬉しくないみたいじゃないか?」
「別にそんなことないっスけど……」
「ふふふ、安心しろ黄瀬」
「え……?」
「見ているこっちがもどかしくなるような恋をしているお前のために、この森山由孝がひと肌脱いでやったのさ」
「そ、それって……! つか、バレてたんスか?!」

 森山先輩は不敵な笑みと共にウインクをした。この人がこんなにも頼もしく見えたのは初めてだ。
 あの人と4日間も同じ場所で寝泊まりできるなんて、こんな幸せがあってもいいのだろうか。今はただただ、森山先輩に感謝するばかりだ。
 夢の合宿まであと一週間。はやく夏休みが始まれと、踊りだしそうな心で何度も願った。

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