本当なら早起きはあんまり得意じゃない。けど中学の頃から朝練を続けてきたせいなのか、最近は寝るのがいくら遅くてもすっきりと目覚められるようになった。
 それに早くに登校すると普段の賑やかな雰囲気とは違う一面をみせる学校がオレを迎えてくれて、いつも周りが騒がしいオレにとってはなかなか心地いいものだったりする。

「あー、今日も朝からしばかれたらどーしよ。笠松センパイならやりかねないなぁ……」

 でもそれも先輩の優しさの一つなんだろうけど。そう考えるとちょっと嬉しくなるかもしれない。……いやいや、しばかれるのが嬉しいとかどんなドМだっての。

「おはよう、黄瀬くん」
「え? あ! 名前センパイじゃないっスか!」

 欠伸をかみ殺しながら校門をくぐると、その脇に造られた小さな花壇の手前にじょうろを持った名前先輩が立っていた。
 朝から名前先輩に会えるとか、今日は超ラッキーかも!

「おはよ、名前センパイ。こんなに朝早くからどうしたんスか?」
「ちょっと早めに学校に来て、この花壇のお世話をしてたの」
「花壇……?」

 どことなく幸せそうに微笑む名前先輩の視線の先には、水滴が朝の陽に照らされてキラキラと輝く何かの葉っぱがあった。
 きっとこの花の世話係なのかもしれない。そう思って尋ねてみたけど先輩は首を横に振った。

「え、じゃあどうしてわざわざそんな面倒なことしてるんスか?」
「ん〜、花が泣いてたから?」
「は?」
「昨日の帰りにこの花壇の前を通ったら、ちゃんと水をもらえてないみたいで……。だから、今日から私が面倒を見ようかなって」

 今はすごく嬉しそうな顔してるでしょ?
 そう言って花壇の前にしゃがむ先輩につられてオレも横に並んだ。
 花が泣くとか嬉しそうな顔してるとか、そんなことを言われてもオレにはよくわからない。けどこの花が元気なのは素人のオレが見てもわかるし、先輩が世話をするならきっと綺麗な花を咲かせるんだろうって確信もある。

「なんつーか、名前センパイって花バカっスね」
「え?」
「え、あ! いや、その! バカって言っても頭が悪いとかそういう意味じゃないっスよ?! センパイはホントに花が大好きで、こうやって花の話をしてる時が何よりも幸せそうだなって思ってだから……」
「ふふ、ありがと」

 くすくすと先輩は本当に喜んでいるみたいだった。

「小さいころから家の仕事手伝ってて自然と花が好きになってたの。だからそう言ってもらえるとすごく嬉しいなぁ。あ、あとね! 今日は早く起きたおかげで黄瀬くんに会えたからそれも嬉しいなって」
「へ……。う、わ……!」

 朝から先輩に会えて嬉しいのはこっちの台詞だし、「なーんてね」ってちょっぴり顔を赤くしながらこっちの顔を覗き込んでくるのもズルすぎる。
 だからオレは慌てて先輩から顔を背けた。オレの顔が赤くなってるかどうかなんて鏡を見なくてもわかる。
 名前先輩を前にするとカメラとかたくさんの女の子の前で見せるモデルの「黄瀬涼太」じゃいられない。いつもドキドキして何もかもがうまくいかなくて、そんなオレを見たら先輩は幻滅しちゃうかもって不安になって、でも逆にこの人ならどんなオレでも受け入れてくれるんじゃないかって期待もしてて。
 ああもう、本当に名前先輩のことが好きなんだなぁ。
 オレの気も知らないで慈しむように花に話しかける先輩の横顔を盗み見ては、オレは苦しくて痛い胸をぎゅっと押さえつけた。

早起きはプライスレス!
  mokuji  
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