ドキドキ、そわそわ。
初めて一緒に帰ろうと声をかけて、その人が掃除当番を終わらせるのを昇降口で待っているんだけど、とにかく落ち着いてなんかいられない。私の横を誰かが通り過ぎる度、心臓を大きく跳ね上がらせながらその顔を確認するという一連の動作を、もう何回繰り返しただろう。
「悪い、待たせたな」
「あ…、土方くん!」
小走りでこちらに来てくれた土方くんは、「そんじゃ、帰ろうぜ」と言いながら私の隣に立った。
さっきまでとは比べものにならない速さで心臓が動いている。こんなに緊張していることを最後まで隠し通せるか、ちょっぴり不安に感じてしまう。
まずは深呼吸を一回。若干ぎこちなくなってしまったけど「うん、行こう」と返事をすると、私達は学校を背後にして校門を通り過ぎた。
「今日で授業も終わっちまったな。明日から俺は受験本番に向けて、ひたすら今までの総仕上げ…だな」
受験なんて早く終わればいい、と土方くんは肩を竦めて困ったように笑った。
私達3年生は、明日から卒業式の前日まで一ヶ月とちょっとの休暇に入る。土方くんのように受験を控えている人は勉強の総仕上げといったように、それぞれの進路の為にその時間を使うのだ。
「そういえば、名前も大学進学だったよな?どこ目指してるんだ?」
「私…?えーっと…その…」
「ん…?」
「実は私…ね、銀八先生のおかげで、推薦入試で銀魂大学に合格してるの…。秋頃には大学決まってたんだけど、皆の邪魔をしたくなくて隠してたんだ…。だから、内緒…だよ?」
「へぇ…。推薦ってことは、3年間日ごろの勉強を頑張ったってことだろ?だったら隠す必要なんてねーよ。すげぇじゃねーか。おめでとう、名前」
「う、うん…。ありがとう…!」
ポンと頭に乗せられた大きな手の平が、わしゃわしゃと私を褒めるように撫でてくれた。まるで自分のことのように喜んでくれている彼の表情を見たら、ほんわりくすぐったい心地がして、自然と頬が緩んだ。
「ちなみに、俺が目指してる大学は銀魂大学」
「え…?!…ってことは!」
「あぁ。ま、たまーにでいいから、俺のこと応援してやってくれよな」
「もちろん!全力で応援するっ…!」
もしかすると私と土方くんは、同じ大学に通えるかもしれない。そう思いながらの返事は自分でも驚くほど快活なもので、徐々に迫っていた星空を圧倒するように辺りに響いた。
「サンキュ。なぁ、お前の家ってこっちだろ?だったら、今日は家まで送ってく」
「ありがとう…。でも、早く家に帰って勉強しなくて大丈夫?」
「ばーか。そこまで俺は焦っちゃいねーよ。それに…、」
「それに…?」
「いや、やっぱ何でもねェ…」
突然口を閉ざしてしまった土方くんを不思議に思い、チラリと彼の表情を覗いてみると、若干頬を赤く染めているような、いないような。たぶん寒さのせいだよね。なんて心の中で納得すると、知らぬ間に半歩前を歩いていた土方くんを小走りで追い掛けて、その隣に並んだ。
私とあなたの羅針盤
その針が示すのは、もしかしたら同じ場所かもしれない