「さて…、もう寝ようかな…」
一日の疲れを振り払うように小さく伸びをすると、腰掛けていたベッドの上にパタンと横になった。
もう2月に入ってしまい、卒業式まで本当にあと少し。しばらく会っていない神楽ちゃんやお妙ちゃんはどうしているんだろう。そういえば、3人でいく卒業旅行の計画、ちゃんと立てなきゃ。目を閉じてボンヤリと考え事をしながら呼吸をする度に、羽毛布団の温かい香りが鼻を擽る。その香りに包まれると、心地好い微睡みが徐々に脳みその奥まで染み込んでいくような気がした。
「ん……?」
携帯を買った時から変えていないありきたりな電子音が、夢の世界に踏み出す寸前だった私を強引に現実世界へと引き戻した。枕元の時計は00:10となっている。こんな時間に誰だろうと、若干不機嫌になりつつも携帯のディスプレイを覗き込むと、そこには「土方十四郎」の文字と彼の携帯番号が表示されていた。私は、慌てて起き上がったせいで落としてしまいそうになった携帯をしっかりと握り直し、震える親指で通話ボタンを押した。
「も、もしもし…」
『名前…だよな?悪ぃ、こんな時間に電話して』
「ううん。大丈夫。えっと…、どうしたの?」
『明日、銀魂大学の試験日なんだ。やれることはやったし、あとは本番を待つだけなんだが、どうしても最後にお前の声が聴きたくなった』
「私の声…?」
『ああ。あの大学には俺の勉強したいことが学べる十分な施設が整ってるから入学してぇって、ずっと思ってた。けど最近、それだけじゃねーみたいなんだ。それは多分…、お前だ』
もちろん、私には彼の表情を知ることなんてできない。だけど、電話越しに聴こえるその声は凜とした落ち着きを纏っていて、たぶん今の土方くんはすごく真剣な眼差しをしているんだろうと思う。
『はは…。なんか、ガラにもねェこと言った。自分でも気付かないところで緊張してんのかもな』
「私、土方くんなら本番でも100パーセントの実力を発揮できるって、信じてるから…、だから、絶対に一緒の大学に行こう…!」
『おう。なんつーか、お前のおかげで余計な心配事が吹っ飛んだ。明日はきっと大丈夫だ。感謝するぜ』
「どういたしまして!そう言ってもらえると、私も嬉しいかも」
『今日は突然悪かったな。あんま夜更かししねーで、早く寝ろよ?』
「はーい。土方くんもだよ?明日、寝坊しちゃったら元も子もないんだから」
『あぁ、わかってる。そんじゃ、また学校で』
「うん、また学校で。おやすみなさい」
プツン、と通話が途切れたあとも、携帯を耳から離すことがなんだか名残惜しく感じられた。
どうか、彼の願いが叶いますように。ギュッと指を組んで心の中で強く念じると、私は夜空に淡い光を放っている真ん丸お月様を見上げた。
君に届け、応援歌
祈ることしかできないけれど、これが今の私にできる精一杯