ふらり、ふらり。一日の疲れが重りとなっているのか、私は覚束ない足取りで真選組屯所から自宅へと向かっていた。原則として隊士は屯所で生活をしなくてはならないが、隊で唯一の女である私は特例として屯所近くのアパートで暮らすことが許されているのだ。土方さん曰く『一応』お前も女だから、らしい。
しかし、今日は疲れた。そう思うと、私は何となく星空を見上げていた。雨宿りで時間を潰した後、土方さんに怒られないためにと思っていたら普段以上に仕事をしてしまったのだ。結局、彼はそれを褒めてくれるような優しい上司ではなかったけれど。
ふぅ、と溜息を吐き出しながら自宅玄関までやって来ると、紺色のドアの前にぽつんと今日の昼間にも見たであろう白いもじゃもじゃがあった。もしかして、と思い、しゃがみ込んで確認すれば、やはりあの時の白猫さんで、私に反応するように尻尾をピンと立ててこちらを見上げた。

「君…さ、どうして私の家の前に居るの?」
「にゃう」

私に猫の言葉はわかるはずもなくて、ただただ困った表情を浮かべることしかできなかった。私の後ろからついて来てしまったのなら納得できるけれど、玄関で待ち伏せしていたとなると白猫さんは私の家を知っていたということになる。そんなはずはないと自分で自分に反論していると、白猫さんは、まるで「開けろ」と私に言っているみたいに玄関を前脚でツンツンとつついていた。

「ニャー、ニャー」
「中…、入りたいの?」
「にゃ」
「一晩だけ、なら…」

私の言葉の意味を理解してるんだか、してないんだかわからないけど、白猫さんはすごくご機嫌そうに低く鳴くと、ふわふわの身体で私の脚に擦り寄った。
玄関で白猫さんの足裏の汚れを拭き取ってから家の中へあげてあげると、白猫さんは一目散に台所へと駆けていって冷蔵庫の前で私を呼んでいるようだった。やれやれと呆れる気持ちを抑えつつ私は台所へと向かう。
そういえば猫って何を食べるのだろうか。猫を飼った経験のない私には猫に何を与えて良いのかわからなくて、あれこれ考えながら冷蔵庫内を探っていた。やっぱり魚?なんて思っても、冷蔵庫にあったのは鯵の干物だけ。さすがに猫に干物は駄目だろうと他の物に目を移すと、私が買った覚えのない物が冷蔵庫の奥に隠れていた。

「あ、いちご牛乳…」

私の家にはコーヒーと紅茶しかないから、銀さんはいつも甘いものを持参してくるのだ。これは恐らく先週銀さんが家にやって来た時に置いていったものだろう。そう、先週まで銀さんは確かに私の隣に居たのだ。
パッケージをよく見ると、いちご牛乳の賞味期限は明後日だった。いちご牛乳なんて嫌いだけど、明後日までに帰ってこなかったら私が飲んじゃうんだから。それが嫌だったら早く帰ってきなさいよ、ばか。溜息と共にジンワリと浮かんだ涙を数回の瞬きで隠そうとすると、白猫さんがどこか必死そうに私を見上げて、ふわふわの頭をこちらに擦り寄せた。

「んー?もしかして心配かけちゃった?」
「にゃう……」
「今は白猫さんがいるから大丈夫だよ…?」

小さな頭を手の平で撫でながら、私はありがとうと呟いた。出会って一日も経っていないのに、既に白猫さんが私の心の支えになってくれているなんてすごく不思議だ。もう一度だけ感謝の言葉を伝えると、私は猫に食べさせても安全なものを調べるためにパソコンのあるリビングへと向かった。
  mokuji  
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