「お嬢様っ!!いつまで寝ていらっしゃるのですか?今日は真選組の方がお嬢様の江戸散策に付き合って下さるのです!ですから、きちんとおめかしをっ…、」 布団を乱雑に剥ぎ取られ、私は寝起きの掠れた声で返事をした。結局、昨晩は高杉さんのことが気になってなかなか寝付けなかったのだ。やっと寝付けたのは太陽がちょっぴり顔を出した時間。枕元の時計を見ると、目を閉じてからほんの数時間しか経っていなかった。 「私は真選組の方に頼んだ覚えはありません」 まったく余計なお世話だ。知りもしない、しかも野蛮であると有名な真選組の人と江戸見物したいなんて誰が思うだろうか。私が望んでいるのは、あくまでも自由に街を見ることなのに。そう思っていたら、「そんなことを言ってはいけません」と窘められてしまった。 「旦那様が松平様とお食事をした際に、お嬢様が街を散策したいと常々思っているという話をしたら、松平様が『それならウチの真選組が』と、お引き受け下さったそうですよ。せっかくのご好意を無下にしてはいけません」 「旦那様、ね…。父様が生きていれば、今のような暮らしなど不可能だったくせに…」 今現在、我が家の当主は私の叔父にあたる人間が務めている。叔父は若い頃に祖父から家を追い出され、本当は父様が跡継ぎとなるはずだった。なのに、数年前に父様が病気で亡くなった途端に再び現れて、図々しくも父の代わりに祖父から家を継いだのだった。金の事しか眼中に無い男。それがあいつだ。 モヤモヤと物思いに耽っていると、女中に肩を叩かれて、若干驚きながら彼女に視線を向けた。「今日のために新しい着物を用意したのですよ」と、嬉々として、もしくはニヤニヤしながらこちらを見た女中が手にしていたのは、かなり丈の短い着物と、異様に長く、穿いたら膝よりも上にきてしまいそうな足袋だった。 「これ…は…?」 「江戸の若い娘はこのような着物を着ていると、私、お嬢様のために調べてきたのです!」 「っ……」 どうしてこんな恥ずかしい格好をしなければならないのだろうか。嫌だと一言言ってしまえばいいのだけれど、とても誇らしげに私を見る女中の姿を見ていると、どうにも断れなくなってしまう。どんどん降下していくテンションに苦笑いを浮かべながら奇妙な着物を受け取ると、彼女は意気揚揚と部屋を出て行った。 |