「あれから3ヶ月、か…」 あの日のように縁側に座って夜空を眺めても隣に高杉さんはいなくて、ここから遥か遠くに見えるターミナルがいつも以上に憎らしく感じられるのはどうしてだろうか。土方さん、坂田さんと別れ、家に入ってみると、そこに待っていたのはいつもと同じ退屈でつまらない日常。いや、あれだけ楽しい思いをしてしまった後では、今まで以上に退屈に感じているのだろう。外の世界が見えているのに触れられない。そんなもどかしさで気がおかしくなってしまいそうだ。 「よォ…。随分としけたツラしてンじゃねーか」 「高杉さ…、」 あの日と同じ、シャクリと細かい砂利を踏みしめる音と紫煙の香りを引き連れて現れた男の人。彼と目が合った瞬間、自然と名を呼んでしまいそうになったが、ある事が私の脳裏を掠めた。私の表情が曇ったことを疑問に思ったのか、高杉さんは少しだけ首を傾げて訝しげな表情を見せた。 「今日もお散歩ですか…?」 彼がここに来る理由がまったく思い浮かばないのだ。もしお金が目的ならば、初めて会った時に私を攫うなり殺すなりしてしまうはず。けれど、あの日も今夜も、彼の瞳からは何の悪意も読み取れなかった。私は溜息を零すと、高杉さんが口を開くまで虫の音色に耳を澄ませながら待った。 「散歩、行かねーか?ターミナルには連れていっちゃやれねェが」 「は…?」 「行くぞ」 「ちょ…、手を離して…!」 開口一番「散歩に行くぞ」なんて誰が予想できるだろうか。しかも、彼は私が返事をするよりも早く、私の戸惑う手を引いて庭へと引きずり出した。 庭に出るための下駄に就寝用の着物で外になんて出たくない。というよりも、それ以前に警備の人の目を盗んで私が外に出られるわけ無いのだ。そう高杉さんに反論してみるものの、彼は自分が羽織っていた大きな上着を私の肩にかけながら「俺が入って来れたんだ。誰も気付きはしねェよ」と意地悪そうに笑って、私を抱き上げたまま軽々と塀を飛び越えてしまった。 「横暴な人……」 「あァ?そりゃあ、褒め言葉だろ」 「褒めたつもりなんてありません」 「行くぞ」 本当に人の話を聞かない人だ。私を置いてスタスタと歩き出した高杉さんの背中を小走りで追いかけていると、自分が再びあの日のようにワクワクしていることに気が付いた。 |