「なまえ、ここに居たのか。」 「叔父…さま…」 この人と会ったのは何ヶ月ぶりだろうか。同じ屋敷に暮らしているにもかかわらず、顔を合わせる機会が滅多にないのは、私から積極的に会わないようにしているのも原因の一つかもしれない。とにかく、この人と顔を合わせることなんて、しかも、向こうから出向いて来るなんて、年に数回あるかないかだ。 酒の飲み過ぎだろう。大きく膨らんだ醜い腹を一瞥してから、叔父に視線を投げると、私は作り笑いを張り付けて返事をした。 「一体何の用事でしょうか?」 「お前に縁談の話がきている。いや…、用意したと言った方が正しいか…?」 「は……?」 「相手は将軍徳川茂茂様に近い縁者のお方だ。お前が将軍家入りすることで我が家の評判もうなぎ登りだろうな…!」 「ちょっと待って…!!」 良かったじゃないか、と声を大にして笑った叔父に負けないくらい大きな声で反論をすると、叔父はニヤリと厭味ったらしく唇を歪め、顎にたくわえた髭を親指と人差し指で撫でた。 「何か問題でもあるか?」 「だって私…。そんな…っ……」 「3年もの長い間苦心して、なんとかこぎつけた縁談だ。まさか、私の顔に泥を塗るつもりはないだろうな…?」 「っ……!」 私はギリと歯を食いしばって目の前の男を睨みつけた。けれど、それは何の効果も生み出さないらしく、「全ては家のためだ」と言い捨てた叔父は私に無慈悲な背中を向けて部屋を出ていった。 「あぁっ、もうッ!!」 何もしていないのに自然と私の呼吸は乱れている。爪が食い込んで血が滲むほどにきつく握り締めた手を壁に打ち付けると、私はそのまま畳の上にへたりこんだ。悲しみと怒りと憎しみ。様々な負の感情が嗚咽となって口から落ちていく。 騙されて、利用されて。どいつもこいつも、私のちっぽけな幸せを平然と踏み潰して何が楽しいのだろうか。私にはわからない、そんなのわかりたくもない。 涙も涸れ、声も嗄れ始めた頃、自分の全てが滑稽に思えて、ただ笑うことしかできなくなってしまった。 自分の為の憫笑 壊れてしまえばいい、この世界も、私も、全部、全部 |