いかでかたしか  | ナノ



ーーー俺は忍術学園に来る前のことをぼんやりと思い返しながらも、良い具合に燃え広がり始めた男の肉塊と部屋を一瞥してから、その部屋を後にする。

しかしながら炎を見るとあの日を思い出してしまうのは、俺にとって最早条件反射のようなものだなあ。

俺はそんな事を思いながらも、宿場から抜け出して今回の実習任務であったーーーエノキ城主に関する重要書物の奪取が正しく行なわれたか、奪った巻物を改めて確認する。
するとどうやらそれらしき情報が巻物の中に書かれていたので、自らの任務が上手く行った事を理解してから、俺は木々を飛び移りながら忍術学園へと向かった。




「ーーーふむ、確かに。これはワシが言うた通りのものじゃな。うむ、名前よ。任務完了じゃ!!評価は優!!、文句無しの満点じゃ!!」
「ーーーはい、ありがとうございます。」

そして、忍術学園に無事に戻って来てから。
俺は学園長に巻物を手渡して畏まるようにして頭を垂れた。
今回の任務の評価は最高評価の優。この任務を受けてからの帰還まで時間の速さと、容易に敵を出し抜いた事でこういう評価を得られたらしい。
敵を出し抜くなど造作も無い事では無いのかとも思ったが、自らと同じ任務についた…勘右衛門や雷蔵はあまりこういう事が得意では無かった事を思い出して納得した。勘右衛門は変なところでへまをするのが目に見えているし、雷蔵はうだうだ悩んでいるうちにぐだぐだになりそうだしな。俺は頭の中でそんな呟きを零しながらも、これからも精進するのじゃぞとか油断は禁物じゃぞとか言っている学園長の前で再度一礼してから部屋を抜けようとする。すると学園長から待てと言われたので反転させた身体を再度学園長の方に向けて何でしょうかと尋ねると、苦虫を噛んだような顔をしながらも「あまりそれに慣れるでないぞ。」と言われたので、俺は少しだけ疲れたような顔をして学園長の言葉に答えた。

「それは、どっちを指しているのか分かり兼ねますが…いずれにせよ、もう慣れてしまったので今更どうしようもございませんよ。」

それでは失礼いたしますね。
俺はそれだけ呟いて、学園長室を後にした。風を切って歩く度に殺した男の返り血の臭いがして、俺は少しだけ眉を顰めた。


ーーー学園長が俺に向かって「あまり慣れるな」と言っていたが、その言葉には意味が二つある。

一つは、「他人を殺すことに慣れるな」、と言う意味だ。
十の頃に育て親を殺してから、俺は人を殺す事に厭わなくなった。
それ以来は任務があると目標達成の為に人を殺す事に苦を感じなくなったのだ。
もちろん、俺自身は人を殺す事があまり良くないことだと言うのは何となく理解しているし、自分と体色は違えど、同じように物事を考え同じように二足歩行できる動物が、自分の手によって死にゆく様に快楽の類いを覚える事は、俺自身まずない。
しかしながらそれでも俺は他人を殺す事に意味や理由なんかは必要なく殺せるようになったのだ。
いちいち「こいつは自分の邪魔をしたから殺した」だとか、「殺さなきゃ任務が遂行出来なかったから殺した」だとか、そういう面倒臭い理由をつけることがないと言うことだ。
ただ付け加えるとするならば、「煩わしかった」程度の意識だ。
そう認識する程度にまで、俺は殺しになれてしまったのだ。だからそれを危惧して学園長は俺に「あまり慣れるなよ」と窘めたのだろう。

そして学園長が俺に対して言っていた「あまり慣れるな」と言う言葉の、もう一つの方の意味は…他人に身体を許すことに慣れるな、と言うことだろう。

しかしそれも土台無理な話だ。なんせ俺は六つの頃から性奴としてあの育て親共から開発
されているからだ。
他人と夜伽をすることなんか痛くもないし、任務遂行が迅速になるのなら俺自身別に構いやしない。
それに此処に来てからも年上年下関係なく俺の容姿に興味を持って抱かせろと言う輩だっているのだから、今更他人の夜伽の相手に慣れるなと言われても環境からして無理だ。

「(と言うか別に、身体を許す事も人を殺す事も、異常で異端な俺ならば慣れても別に問題なかろう。)」

そう言う処遇を受けて産まれて来たんだろうし。
俺はそう頭の中で改めて結論付けながらも、長屋の自室に向かって歩いた。静まり返った自分の学年の長屋に行き、ガララと引き戸を引いて自室を見やれば、そこには待ち構えるようにして三郎が居たので、俺は溜息を着きながらも三郎に問うた。




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