「今吉って手ェ綺麗だよな。」

10分休みにいきなりワシにそう言うて来たんは、ワシと同じクラスでそこそこ仲の良い奴である、苗字名前やった。


「…自分イキナリなんなん?」

机に頬杖つきながらスマホ弄っとったワシは、苗字に突然言われた言葉にビビりながらも言葉を返す。すると苗字はワシのスマホを弄っとった指先をじいっと眺めながら、「ん?、いや、別に。今吉って手ェ綺麗だよなァと思ってサ。」と呟いた。
褒めて貰えるんは悪い気しやんのやけど、とりあえず自分の視線が痛いんはどないかならんのやろうか。


「…そらどうも?」

そんな事思いつつも、視線が痛いとか言う気はないのでスルーしたろうと思うたんやけど。

スルーしてもそれでも尚、めっちゃガン見してくる苗字の視線に耐えられんくなったワシは、別に思うてもない感謝の言葉を紡いだ。すると調子こいた苗字はワシに訳わからん要求をし始めた。



「……なぁ、ちょっと触っていい?」

「……はぁ?」

イヤやわキモい。ワシはそういいながら顔をしかめる。え、コイツ、いきなりなんやねん。イライラしながらもそんな事思いよったんやけど、ワシからキモいと言われたクセに全くノーダメージな苗字は、「えー。良いじゃん手ー触るぐれェ。」といまだに食い下がってきた。うわ、うっざいなぁコイツ。

「……あんなぁ、」

とりあえずキモい以外に反論したろ、と思ってなんか言おうと口を開いた時。

苗字はやたら真剣な目をして「良いだろ。」と言うてきた。…ああ、メンドクサイ。苗字がこないなったら、テコでも動かへんのよな。この2年間で苗字の性格をしっとったワシは、溜め息をつきながら降参のポーズをした。



「…わあったわい。苗字の好きにせぇ。」

「へへっ、サーンキューぅ。」


ほんで許可したら許可したで「じゃあ舐めていい?」とか調子乗った事をほざき出した苗字に、「黙っとらんといてこますぞワレ」と凄めば、ようやっと苗字は空気読んで黙った。そんな苗字にワシは鼻で笑う。
自分はガキの頃に黙るっちゅー事をもうちょいマトモに学ぶべきやったな。とちゃかし半分で苗字に言うたら、ワシの皮肉なんぞカケラも聞いてへんかったらしい苗字は、じっとワシの手のひらを見ながら、なぁ、と全く別の話をしはじめた。



「…なぁ今吉。」

「なんや。」

「…お前、大学でも、バスケしてな。」

「……なんやねん、いきなり。」


ホンマ、イキナリなんやねん。
ワシの手のひらをふにふにと触りながらそう言うて来た苗字に、ワシはまた顔をしかめる。
さっきっから気色悪いで苗字、とワシが言えば、苗字は、まぁちょっと聞けって、と言うて今の話の続きを話し始めた。


「……俺、お前のバスケ…まぁ今年のWCの一回しか見たことないんだけど…そのお前の…クソ性格悪いバスケ、結構嫌いじゃなかったからさ…。」

「いや、言うに事かいてクソ性格悪いて。」

「事実だろ?」

「せやかて言い方っちゅーモンがあるやろ。」

「そうだけどさ。…まぁとにかく。」

「オイ。」

「…また、バスケしてな。」


そう言うて目を細めて笑う苗字は、どう見ても何かを重ねて懐かしんどる顔にしか見えへんくて。

ああ、コイツはきっと、自分にでけへんかった事をワシに託しとるんやろなぁと思った。


せやけど、ワシは性格が悪い。そんなもん他人に言われんでも分かっとるわっちゅー程度には、ワシは性格が悪い。せやからワシは、苗字に、なんかを懐かしんでうっとい苗字に、こう言葉を返した。


「…そんなら。」

「?」

「ワシの勇姿を見るために、自分はワシと一緒の大学目指して頑張らなな?」

「…っはは、確かにそうだな。」


ワシの言葉を聞いて、少しだけ目を見開いた苗字。

せやけどそれは一瞬の事で、次の瞬間にはあんなに触っとったワシの手のひらから、スルリと手を離して席を立った。
そして遠山に呼ばれて右足をびっこひきながら他のクラスに行こうとする苗字を見て、ワシは、苗字がなんでワシにあんな事を言うたんかなんとなく分かった。


「……辛くても、言いたくないんよなぁ。」




心配されとうない。同情なんか尚更や。それでも、でけへんくなったって分かっとっても、胸ン中をむしられたような気持ちになる。

……まぁ、わからんでもないで、そん気持ち。


苗字の後ろ姿と、手のひらに残った微かな温もりに、なんとなく寂しさを感じたんは、ワシの気のせいやと思う事にした。




―――――――――――
思いの外青臭い今吉

因みに主人公は元サッカー部の天才ボランチだったけどインハイ決勝で半月盤損傷しちゃってこれから一生サッカー出来なくなったっていう設定。



サトリ妖怪が大好きな友達へ。








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