家が近所にあったということで、アイツとは昔から何かと一緒に過ごしていた。

家が近所だから保育園も幼稚園も小学校も中学校も一緒だったし、帰り道も一緒だったから、必然的に仲良くなって、だから一緒にいた。

そう。ずっと、一緒にいたんだ。




「あ、俊じゃん。」
「……あれ、名前、?」

部活帰りで日も暮れた午後8時。
電車を乗り継いでやっと辿り着いた我が家に、さぁメシでも食うかと足を踏み入れようとしたところで、昔馴染みの名前と偶然出会った。向こうもまさか俺と出会うとは思っていなかったみたいで、あからさまにビックリした表情で「おー懐かしいなぁ、1年振りくらいか?」と笑みを携えながら言ってきた。俺の記憶では最後に名前にあったのは去年の夏に河川敷の祭りだったから、おおよそ名前の言に間違えはないだろう。ああそうだな、と会話を合わせながら返せば、今部活帰りか?、お疲れ様だなあと言って昔と変わらないお節介を焼かれた。名前も変わらないな。そう言って笑えば、なんだよ、変わったんだぞ!?、と言って軽く窘められた。

「へえ。そうなのか。じゃあどこが変わったんだ?」
「ん〜?、気になる?、知りたい?、」
「……なんだよ、なんかあるのか?」
「んふふ。実はオレ、彼女が出来ちゃいましたー!!」



「………………え?」


ーーー名前から聞かされた言葉に、おれは驚いて肩にかるっていたエナメルバッグを落としてしまった。ドサリ、とバッグがコンクリートの道路に落ちてぶつかる音がする。名前の、え、そんなに驚くこと?、そんなに?という呑気な声を聞きながらも、しかし頭が真っ白になってしまった俺は、そんな名前の声にも返事が出来ずにいた。


「(ーーー彼女?)」

俺の真っ白になった頭の中には、そんな言葉がポツリと浮かび上がる。

「(彼女って、なに。え、アイツに、彼女が、いる…?)」

真っ白の頭の中には、徐々に言葉が増えて行って、真っ黒に塗りつぶされるように様々な言葉がよぎった。

「(俺は昔っから名前とは幼馴染で、いつもいつも一緒にいた。なにをするにもずっと一緒で、学校に帰るのも行くのも、帰ってから遊ぶのも勉強するのも、ほとんどずっと一緒だった。)」


ーーー名前と出会ったのは3歳の頃で、お隣さんで同い年だからって親の紹介で一緒に遊ぶように言われた。

幼い頃の俺は人見知りをする方だったから出会ったばかりの名前と遊ぶのはあんまり乗り気じゃなかったけど、名前が色んな場所に引っ張ってくれたから俺は名前について行った。

川に行って水掛け合って、草原でゴロゴロ寝っ転がって。そうやって二人で遊んでいるうちに俺は名前の隣にいるのが当たり前になった。そして、小学校に上がるよりも前の時には、俺にとって名前は唯一のものになった。ずっと一緒にいたい。こいつの隣にずっといたい。俺はこいつの一番の仲良しで有り続けたい。そう思って、母さんに「ずっと一緒にいたいって人が出来たらどうすればいい?」と尋ねたら、「指輪をあげてプロポーズしたら?」と言われたので、シロツメグサと言う花で指輪をたくさん作って、名前にあげた。

「ずっといっしょにいようね。」って言ってあげたんだ。

そしたら名前が当たり前だって言って笑って抱き締めてくれたから、顔から火が出るほど恥ずかしくなって、胸がぎゅうううってなって、離れたくなくなって、それで、ずっと一緒にいたんだ。

そしてその感情の名前が分かったのは、俺が小学校4年の時だ。たまたま同じクラスになった女の子に告白された時に、「ああこれが恋なのか」とざっくりと理解した。

と、同時に一般的には異性間でしか生まれないらしい感情ということも知って、軽く絶望したのも覚えている。

アイツに対するこの感情はフツウではない、と理解しながらも、俺は、小学校4年の頃から、名前の一挙手一投足に一喜一憂したり嫉妬したり照れたりしていた。ああ、今日の今日、今の今までだ。


「(別々の高校に行ったって、ずっと好きだった。)」


いや、もうこんな不毛な恋愛は辞めようと、名前を忘れるために俺は彼とは別の高校に行ったのに、それでもずっとこいつのことが好きだったのだ。

愛おしくて愛おしくてたまらなかったのだ。忘れられなかったのだ。

それなのに、名前の隣には、もう俺以外の人間が立ってるだなんて。




「ーーーーん、おい、…俊?」


ハッ、と顔を上げると、そこには泣きそうな顔をした名前の姿があった。

なんでお前が泣きそうなんだよ。泣きたいのはこっちだよ。そんなことを思いながらも名前を見つめれば、「俊?、どうした?、体調悪いか?」と言って顔を近づけられたので、俺は苦しいなあと思いながらも、名前のその顔を、グーで殴った。

「っバカ名前、さっさと別れちまえこのスカポンタン。」
「っえ!?、ちょ、ひどくね…!?」


ひどいとおもうよ、俺も。

でももう分かってしまったんだ。
いや、正確には分かってたんだけど、やっと諦めがついたんだ。

お前の側にいていいのは、お前の側で笑っていていいのは、俺じゃなくて別の誰かなんだって。
俺なんかじゃなくて、お前にお似合いの、やさしくて、かわいい女の子なんだって。

だから、

「そんで、ずっと仲良くしろよな、名前、」
「……俊?」

笑って見送るしか、ないだろ?




俺は蔕を噛む気持ちで、笑って家に入った。玄関に入ってから座りこめば、制服の襟ぐりに涙の水滴がついて、紺色の制服が藍色に滲んだのが見えた。


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つづかないよ。


シロツメグサの指輪とかかわいいな伊月。









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