俺はまだ人生を20年も生きていないが、自分がいかに常識からかけ離れた人間かと言うことを恐ろしく良く理解しており、そしてそれを十二分に理解している上で非常識な人間であり続けた。

「あ…ァ…っや…ぃや…だ…ッ!!」

―――――それは何らかの外圧によりそうせざるを得ないものだったから、と言う訳でも、誰かに頼まれたから、と言う訳でもなく、ただ単に己の興味と快楽の為だけに、そうしていた。

「っやめて、くださ…ッ名前、先輩!!」
「だめ、涼太。」

ゴキリ、と言う音がして、涼太の肩の関節が外れる音がした。
俺の下で仰臥する涼太は、ひどく痛々しい表情で目から水滴を流しながらこちらを睨む。
嫌だ嫌だと拒絶する傍らで、その何かを懇願するような瞳を向けてくるのは何故だろうか?

「涼太、左肩どう?痛い?」
「…っ!!」


俺がそう問いかければ、涼太の綺麗な顔はグシャリと歪む。薄茶色の長い睫毛がふるふると痛みに耐えるように震えて、俺はそんな涼太を見るだけで、背筋と腰に淡い痺れを感じた気がした。

「かわいいな、涼太。ホント、かわいい。」
「もッ…やだ…!!」
「泣いて良いよ。そんな涼太が好きなんだ。」
「ッ…ぐぅ…!!」
「ああ、今のイイ。…じゃあ次は…入れる?外す?」
「やッ…いやッス…!!」
「はは、それじゃあ答えになってないだろ。」

答えにならない答えを返す涼太に、俺は笑いながらそう言葉を返す。
すると涼太は悔しげな眼差しと共に、涙をぼろりと溢して見せたので、俺はそんな涼太を見て、やはりいとおしいなと思った。


―――――この行為に至る前は、ただ純粋に、この綺麗な顔を泣かせたらどうなるんだろうと言う歪んだ疑問が胸の奥に沸いたから、こういう事を始めた次第だった。
別にバスケットボールプレイヤーである彼を再起不能にさせたい訳でも、モデル業に専念出来なくなるほどに外傷をつけてまで痛め付けたい訳でもない。
ただ、この行為を重ねていくうちに、こういう意味のない、痛みしか伴わない行為に、いつまで付き合ってくれて、そしていつになったら俺に対して畏怖を向けるんだろうか、と言う疑問も沸いて来たから、それが分かる迄俺は涼太を苛めようと思っているのだが。


「いたい…っも…やだ…!!」
「うん、かわいいよ、涼太。」


―――――この行為を重ねていく度に、俺は涼太に対して堪らなくいとおしさを覚えた。
俺の理不尽な暴力に耐える傍らで、なすすべなく必死にいやだいやだと赤子のように泣く涼太に、どうしようもない性的快感を覚えた。
心の底からいとおしいと思ったし、身体の内側から堪らないと思った。
マスターベーションするよりも、昔居た彼女とセックスするよりも、ずっとずっと心地よくて、俺の身体中に張り巡らされた神経組織の全てを麻痺させるような感覚だった。
俺は病みつきになってしまったのだ、涼太が喚く姿をこの網膜に焼き付ける事に。
泣きわめく涼太の愛らしさに。

だから俺は、「いつになったら涼太が俺から離れるか」なんて疑問を抱きながらもその反面で、いつまでも俺のいとおしい暴力対象であってほしいとも思っていた。
俺の心情が歪んでいるなんて事は、他人からわざわざ言われなくても理解しているし、自分でも極稀に涼太に申し訳なさを感じる事がある。けれど。


「名前先輩…ッ、…っも…やめ…っ!」
「やだってば。」

「おれ…の、こと…、きらい、だって…っわかったから…!!」
「もう、すきになんて…ならないから…!!」



―――――そう喚いた涼太に、俺は少し瞠目する。


……そっか、だから涼太は逃げないでいてくれたんだね。

俺はそんな事を脳内で呟きながらも、口元には笑みを浮かべて、涼太に話しかけた。

「そっか、涼太。涼太は俺の事好きだったんだね。」
「っ、」
「実は俺も涼太の事大好きだったんだ。」
「っえ…?、」

「…でも涼太、例え俺がお前にキスをしたってセックスをしたって、俺はお前に泣かせたいって感情しか沸かないんだぜ?」
「……は、」
「俺はね、涼太。…泣いてるお前が好きなんだ。嫌だ嫌だと言いながらも、痛みしかないこの行為に自ずから進んでくるお前が、その純然たる愚かさが、何よりいっとう愛しているんだ。」
「そ、…な…ッ!!」
「ああ、今のイイ。」

堪らない。そう言いながら、俺は涼太の唇にキスをした。保湿クリームを塗っていた涼太の唇に唇を合わせると、そこからリップの匂いが仄かに漂ってきて、なんだか無性に壊したくなった。


「愛しているよ、涼太。」
「っ…くるしい…、もう…嫌だ…ッ!!」
「はは、まだだよ涼太。もっと苦しんで。」



「お前の泣き顔が何よりいとおしいんだ。」



俺がそう呟いた後に泣いた涼太は、やはり俺が思った通りにいっとう美しくていとおしかった。


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黄瀬ファンには悪いが、黄瀬は泣かせてなんぼだと思うの。









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