ーーーとうとう明日、この家を離れて訓練兵団に行くとなった今日この日。 朝、いつも通り朝食を取りにキッチンへ向かうと、そこには俺の席のそばでモジモジしながら突っ立っている我が妹ミカサ=アッカーマンと、そんなミカサをニヤニヤした様子でみつめるパパとママが居ました。 …あれこれどんな状況。 俺は脳内でそんな言葉を漏らしながらも、ホントに状況が読めないのでパパ上とママ上に「(オイこれどういう状況なんですかコラ)」と視線で合図を送った。するとパパ上もママ上も俺の視線に気付いた筈なのに、いい笑顔で手招きするだけで状況をお話ししてはくれなかった。なんなのこの両親。もうやだ。 俺は心内でそう毒づきながらも、とりあえず両親の望むがままに自分の席へと向かう。 すぐそばにはここ何ヶ月か俺をシカトし続ける気まぐれなマイエンジェルことミカサ=アッカーマンさん(7)がいる。気まずい。クソ気まずい。なにこれどうしたらええのん?節子?お兄ちゃんどないしたらええのん? そんなバカみたいな事を考えつつ、冷や汗だらっだら流しながらも、ミカサのそばにいって、上ずった声で「お、おはよう」と挨拶してから、俺は自分の席に座ろうとする。 つ、つーかミカサさんはなんで自分の席に座ってないんすかね? も、もしかして「お兄ちゃん、訓練兵団に行くなら勘当(?)よ!!」みたいな事を言うために俺の席のそばにいらっしゃるんだだろうか。うわあ。それ辛い。嫌われ過ぎて勘当とか。いやこれは俺の妄想でしかねーんだけどさ。 気まずい空気の中でそんな事を考えつつ、とりあえず席に着こうかと半歩足を動かそうとした時。 「あ、あにょっ…!!!、!?」 「(アニョ?)」 壮絶に舌を噛んだミカサさんから話しかけられたので、俺は意識をミカサさんに渡した。ミカサさんは舌を噛んだせいか、めっちゃ涙目になっている。痛そうだ。大丈夫かなこの子。ミカサの舌の心配をしながらも、俺はミカサの話の続きを促す様に首を傾げる。するとミカサは片手で口を抑えながらも、話の続きを話し始めた。 「〜〜…あの、お兄ちゃん、明日から、く、くんれんへいだん、行くんだよね…?」 「あ、ああ……。…その、」 「だっ!!、だから、わたし、お母さんから習って、マフラー作ったの!!」 「………マフラー?」 そうつぶやいてミカサを見つめれば、ミカサは後ろに隠していたらしい真っ黒いマフラーを俺に差し出してきた。 真っ黒いマフラー。ミカサが編み物をしたのはきっとこれが初めてなんだろう、端っこや途中途中で編み目がめちゃくちゃになっているのが見えたが、それがなんだかものすごく、愛おしく見えた。 「うん、…冬はさむいでしょ?、ふく、もらえるって、お母さんからきいたけど、あったかいもの、あったら良いかなと思って。」 「……、」 そう言いながら顔を赤くしてそっぽを向くミカサに、俺は胸をキュンキュンさせながらこの数ヶ月、かまってくれなかった事を頭の中でよぎらせる。 も、もしかしてこの数ヶ月、ミカサさんが俺を悉くシカトしなさったのは、これを作るため、だったんだろうか………??? どうしても気になったので、ミカサさんに「もしかして、これ作ってたから、今まで俺のこと……」と問いかければ、ミカサさんは「だって、お兄ちゃん、いなくなるから、なにかわたしたかったの」とものすごくかわいい事を言い出したのでお兄ちゃんはミカサから嫌われてなかった事も相俟って安心して鼻血出そうになった。 ーーーそして、ミカサはまだ続けて話す。 「わたし、お兄ちゃんには、ホントは、行ってほしくないよ。ずっとここでいっしょにくらしたいよ。でも、でも、お兄ちゃんが決めたことだから、わたし、ワガママいっちゃダメなんだよね?、お兄ちゃんに、なにかかんがえがあるから、行くんだよね?、お兄ちゃんが、わたしのことキライになったから、行っちゃうんじゃないんだよね?」 「…ミカサ。」 うるうる、泣きそうになるミカサを見ながら、俺は嫌いになるわけがないじゃないか、と思いながらマフラーを差し出すミカサをやんわりと抱きしめる。 「マフラー、ありがとうな。すっごく、うれしいよ。」 「っおにいちゃん、」 だいすきだよ、ミカサ。とまるでイケメンしか許されないようなシチュエーションでイケメンしか許されないようなセリフを呟けば、ミカサは嗚咽交じりに叫ぶようにしてこう言い出した。 「おにいちゃん、ぜったい、ぜったい帰ってきてね!?、ぜったいだからね!?、しんじゃ、ダメだからね!?」 「大丈夫だよミカサ、帰って来るよ。」 「…!?」 「ちゃんと帰って来るよ、だって俺は、ミカサのお兄ちゃんだからな。」 そう言ってミカサをさっきより強く抱き締めると、ミカサはまるで今まで耐えていた何かがぶっ壊れてしまったかのように、俺の肩口に顔を押し付けてわんわん泣き始めた。 ああ、なんか俺って今から死ぬ訳でもないのに、一生会えなくなる訳でもないのに、ミカサにこんな風に泣かれちゃったら俺まで一緒になって泣きたくなっちまうじゃねーか。くそう。 俺はそんな事を思いつつじわりと滲む涙に耐えながらも、ミカサが泣き止むまでミカサの背中をぽんぽんと叩き続けた。ミカサはわんわん泣きながらもずっといかないで、って言うから、俺の決心が揺らぎそうでヤバかった。この妹、恐るべし…ッ!!! 「ミカサのくれたマフラー、ずっと付けてるから。」 「っうん、」 「ミカサのこと、ぜったい忘れないから。」 「うんっ、」 「毎月、休みの日には、帰って来るから。」 「っうん!!」 「だからミカサも……、元気でいろよ。」 「うん…っ!!」 ちょっと貰い泣きしそうになりながらも、どうにか取り繕うようにして笑ってそう話しかければ、ミカサは元気よく頷きながら俺の頬にちゅーをした。妹可愛すぎて死んだ。 お兄ちゃん、明日から訓練兵団で頑張るよ!!!! ーーーーーーーーーーーー と言うわけでマフラー編でした。 次から訓練兵団編。 |