―――――そんな感じで、イェーガー先生が来る前に母さんが彫ってくれた刺青を見ながら桃園の誓いならぬ刺青の誓いを1人立てていると、やがてイェーガー先生と…なんかちょっともじもじしたエレンが現れた。 …なんでもじもじしてんだよ。トイレにでも行きたいんかお前。 俺がボンヤリとそんな事を思っていると、現れたイェーガー先生とエレンの姿を見つけたお母さんが、彫刻刀らしきものを棚にしまいながら二人に話しかける。 「イェーガー先生、わざわざすいません。」 「いえいえ、…さぁカスガ、彫った方の腕を見せてくれるかい。」 「(うおおちょう待ってたよイェーガー先生ぇえええ!!)…、はい先生。」 「エレン君も、わざわざカスガ達に会いに来ててくれてありがとう。」 「………べつに。」 「今、カスガは手が離せないから、ミカサと遊んでくれないかしら?」 「………!!!」 「(…エレン…"ミカサ"って聞いた瞬間にあからさまにイヤそうな顔してんだけど…。…どんだけ犬猿の仲だよお前ら…。)」 イスに座ってイェーガー先生に腕を診て貰いつつも、母さんとエレンの会話を横で聞いて、相変わらずのエレンとミカサの犬猿っぷりに俺は遠い目をする。 …たのむから仲良くしてくんねえかなぁあああ…。 …俺、お前らが会うたびにそう言ってんだけど…なんでか逆に、日に日に仲が悪くなってくんだよなぁああ……。 今なんてマイエンジェル(ミカサ)がいねーにも関わらず、マイエンジェル(ミカサ)の名前出しただけでエレンごっさイヤな顔したしね…。もうお前ら前世でなんかあったの?っつーレベルで仲悪いよね…。なんなの…?、お前らの前世、サトシとシゲル的なアレなの?、もしくはラオウとケンシロウ的なアレなの?、はたまたルフィと黒ひげ的なアレなの?、もうお兄ちゃん考えるのもショボンなんだけど。 ―――――そんな事を頭の中で呟いていると、別の部屋で寝ていたミカサが起きてきたのか、俺達の居る部屋にやってきた。そしてやって来てエレンを見るや否や、イヤな顔をするマイエンジェル(ミカサ)。そんなマイエンジェルに以心伝心したかのように同じくイヤな顔をするエレン。 「!!!、…なんでいるの、エレン。」 「いっ、いちゃわりーかよくろがみおんな!!」 「アンタだって、くろがみじゃない。」 「お、おまえは…!!、おまえは兄ちゃんとかみのいろがちがうだろ!!」 「……うるさい。だまれ。」 はいはいまただよこのやり取り……。 会うたび会うたび髪の色が違う目の色が違う似てないうるさいだまれお前だけの兄ちゃんじゃねーんだぞエレンのお兄ちゃんでもじゃない…って何回すんの!?、お前らがあんまりにもおんなじネタでケンカするから俺一連の流れ覚えちゃったんだけど!?、て言うかお前らどんだけ俺の事好きなの!?、ヤンデレ!?、独占欲的な!?、これ悪ふざけみたいなノリで言ってるけど強ちガチだから俺内心けっこう困ってたりするんだよ!?、仲良くしろよって思ってたりするんだよ!? 心の中だけでそんな事を思いながらも、いまだにいがみ合うミカサとエレンを見て、俺はコッソリ溜め息を着く。 て言うか保護者組(イェーガー先生と母さん)はなんでミカサとエレンを止めてくんないの?、と疲れた瞳で保護者組を見やれば、「あらあらカスガったらモテモテね」「カスガは若いのにしっかりしているから、エレンも頼りたいんでしょうな」なんてニコニコしながら話していてなんかもう泣きたくなってきた。……止めようよ保護者組……。 でもそうしてエレンとミカサに誰も何も言わないでいると、ミカサとエレンのいがみ合いは永遠に続きそうになるので、俺は少しげんなりしながらも、二人の仲裁に入る。俺は一体この1年間で何回この役目をすりゃいいんでしょうかとか思いながらも、俺は静かに口を開いた。 「…オレは、別にどうでもいいよ。かみの色とか目の色とか。」 「ただ、ミカサのかみが黒でも、ミカサの目が黒でも、オレの目がきいろでも、なんでも。オレとミカサはきょうだいだよ。」 「っおれは!?」 「(すげえ食いついてきたなエレン…)…そうだな。エレンも、きょうだいだ。」 「!!!、ちがうお兄ちゃん!!、コイツはきょうだいじゃない!!」 「うるせぇぞくろがみおんな!!、カスガ兄ちゃんがきょうだいっていったらきょうだいなんだよ!!」 「ちがう!!、っ…お兄ちゃん…っ!!」 ………そんで俺、毎回そうだけど、仲裁出来てなくない?、俺がバカだからなの?、前世が一人っ子だったからなの?、またミカサたん泣きそうになっちゃってんだけど。俺の仲裁の仕方が悪いの?、もうどうすれば良いの?、逆に俺も泣きそうなんだけど。て言うかなんかもう自己嫌悪で土に埋まりたいんだけど。ごめんよミカサたん、エレン。お兄ちゃんは不甲斐ない兄貴でござる…。 泣きそうなマイエンジェルにぷんすかなエレン。そしておろおろしている俺という、更にカオスな状態に陥っている時。 そんな現状を見かねてか、母さんは思いだしたように俺達に喋りかけた。 「ああ、そう言えばカスガ、今日誕生日だったわね。」 「?、…そ、そうだけど…。…て言うか、だからイレズミほったんでしょ…?」 何をいきなり言い出すかと思いきや。そんな事を思いながらも母さんにイエスと返せば、泣きそうな顔をしたミカサたんが、まるで今の今まで嘘泣きだったんですよーみたいな素振りで一気に顔色を変えて「っかあさん!?」と呼び掛けたのでビックリした。………え、み、ミカサたん……?、どうしたのいきなり……。 ミカサたんのあまりの変貌っぷりにビックリしてボーゼンとしていると、今度は今までぷんすかしていたエレンが、さっきとはあからさまに顔を変えて、すげえ嬉しそうな顔をして俺に話しかけてきた。な、なんだなんだ…!? 「!!、カスガ兄ちゃん、今日たんじょうびなの!?」 「え、…うん。」 「!?、お兄ちゃん、なんでいうの!?」 「っえ?」 言っちゃダメなの?、て言うかナニコレ。どういう状況?、なんでマイエンジェルはこんなにイライラしてんの?、なんでエレンはこんなにキラキラしてんの?、ちょっとお兄さん理解出来ないんだけど。 状況が掴めなくて、一人で首を傾げている傍らで、話の発端の母さんは尚もエレンとミカサに話しかける。 「ミカサ、エレンくん。…せっかくだし、二人でカスガに誕生日プレゼントでも用意してくれないかしら?、カスガも、そしたらきっと喜ぶわ。」 ……しかし母さんのそんな言葉を聞いた時、状況を分からなかった俺でも、母さんがなぜこんな話(俺の誕生日うんぬんな話)をし始めたのかなんとなーくわかった。 ……ああ。なるほど母さんは、 「っわかった!!、しかたねぇな、行くぞ!!、くろがみおんな!!」 「あ、……ッエレン!!」 ―――――ドタドタバタ、バンッ!! ………二人を上手く焚き付けて外に行かせたかったのだ。 「はぁああ…――……母さん。」 「なに?、カスガ。」 「…ミカサとエレンを外に行かせたいからって、オレをダシにするの、やめて。」 「ふふ、カスガは気付いてたのね。お利口さんねぇ。」 「将来有望だな、カスガは。どうだ?、医術でも学ばないか?」 「………。」 ……て言うか母さん、最初から二人をかわす話術をもってんなら傍観してないで俺を助けてくれたってよかったんじゃね?、とか思ったけど、「え、だってあんたがアタフタしてるのを見てるのが楽しいじゃない」とか言われたら立ち直れそうにないので黙っていることにした。 とりあえずお兄ちゃんはミカサとエレンが無事に帰ってくることを祈ってます。 アイツら無茶しそうだしな…。…変な傷とかつけないでくださいよ…。 イェーガー先生と母さんの話を横で聞き流しながら、俺はそんな事を考えていた。 ――――――――――― 刺青からの誕生日プレゼントの下り。 因みにミカサがショックがってたのは、エレンにカスガの誕生日がバレてしまったから。 エレンの知らないお兄ちゃんの事をわたしは知ってるんですよ的な。 |