24時間2 | ナノ
(どうしてこんなことに…)
隣を歩く彼を見上げて、眉を寄せた。時おりこちらに話しかけながら、楽しそうに歩いている。
黄瀬涼太くん、1年。背も高いし、大人っぽいから先輩だと思ってた。自己紹介された時なんか思わず2度見した。
(やっぱり会ったことあるよーな…。ないよーな…、あるよーな…。もしかして…)
「バスケ部の子!!」
「へっ?」
「バスケ部、だよね?」
「そ、そうッスけど…」
思い出した、春休み中に、まだ部活動の案内もされていない頃、私に男子バスケ部の場所を聞いた新入生がいた。
「あの時の子かあ…」
彼はもうそんなこと覚えてないかもしれないけど。背が高くて、整った顔立ちで、印象に残っていた。…でも、今の今まで思い出せていなかったわけだけど。
「覚えてるんスか…?」
その大きな目をしばたかせる。ぱちりと音がしそうなくらいだ。私よりまつげが長いのではないだろうか。
「黄瀬くんも覚えてるの?」
「ハイっス!てか、ずっと先輩のこと探してたッスから」
「え…」
屈託なく笑いかけられて、胸の奥がざわつく。ああ、やっぱり。
(この笑顔には弱いみたいだ…)
「道教えてもらった日から、なんか先輩のこと忘れられなくて探してたんスけど、見つからなくて…。そんな矢先に、偶然入ったコンビニで見かけて、通い詰めちゃいました」
気持ち悪いッスね、と眉を寄せた彼に首を振った。
「そんなことない、けど…どうしてそこまで…」
「一目惚れッスかね?」
これまたなんのてらいもなく言ってのける。なんだって…?天然物のイケメンはこんなに殺傷能力の高いものなのか!
「先輩、俺と付き合ってください」
ほら、そんな真剣な顔をする。
「え…?でも名前すら今日知ったばっかりなのに…」
そう言うと黄瀬くんはうーん、と唸った。
「でも、接客してるときみたいな先輩の笑顔をもっと見たいと思ったんスけど…」
「…ダメっスか?」
そして今度はそんな悲しそうな顔で。
いつのまにか、私が弱いのは彼の笑顔だけではなくなっていたようだ。彼のどんな表情にも、感情がリンクして、良くも悪くも弱いみたいだ。
「…よろしくお願いします」
だけどやっぱり、
「!!よろしくお願いしますっ!!!」
この笑顔が一番すきかもしれない。
出会ったばかり、名前も知ったばかり。私達の間には、付き合うに至るほどの時間も会話もなかった。
だけどそんなことは関係ないくらいに、私も黄瀬くんのことをもっと知りたいと思ったんだ。
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