隠し事 | ナノ
宮地くんは、毒舌だと思う。さわやかな笑顔でさわやかに毒を吐く。付き合い出してから、大分耐性がついたと思っていたけれど、甘かったようだ。
「お前、太った?」
「え?」
彼はそう言って私の二の腕をつまんだ。最近ご飯の美味しい私の二の腕は、ぷにっと音がしそうな感じに彼に大人しくつままれている。確かに、冬服に変わる寸前で油断していたかもしれない。
「ほ、ほら!食欲の秋だし!冬に向けて蓄えが必要だし!」
私の白々しい言い訳には、ふーんと気のない返事が来た。太った彼女はどうでもいいってことですか…?
(これは…痩せなくては!)
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「あれ?お昼それだけ?」
友人に訪ねられた私の前に並ぶのは、サラダと野菜ジュース。
「うん!私今日から痩せるから!お菓子とか与えないでね!」
意気揚々と宣言した私の前で友人達がここぞとばかりに楽しそうにお菓子を広げ出す。
「あれー?チョコ食べないのー?」
「ううううるせいやいっ!」
宮地くんもみんなも鬼だっ!
そんな野菜生活が1週間ばかり続いたある日、私は見事に学校でぶっ倒れた。
「貧血、ね」
保健室のベッドに寝かされた私は、その後延々と先生に正しくないダイエットの危険を説かれた。
大人しく寝ていること!と残して出ていった先生を見送って目を閉じた。しばらく寝付くこともなくそうしていると、また誰か入ってきた。
(先生かな…?)
しかしその誰かは早足に私のベッドの方に近づくと、勢いよくカーテンを開けた。
「…寝てんのか?」
(この声…宮地くん!?起きてるんだけどな、どうしよう…)
なんとなく言い出しにくくて、そのまま寝たフリをすることにした。宮地くんが腰を下ろすとベッドが軋んだ。
「なんか顔色悪ぃし…。ダイエットしてるってまじだったのか?」
(!?情報元は友人か…!奴等、覚えておれ…)
骨ばった手が頬を撫でた。
「つまんねえ事気にして…」
つまんねえ事?それは聞き捨てならんな。
「つまんなくないから!」
「うおわっ!?」
起き上がったら宮地くんが飛び退いた。
「女子とって体重は重要なの!彼氏に体重の話されたら一大事なの!大事件なの!」
力説した私に、宮地くんが盛大な溜め息をついたかと思えば視界が真っ暗になる。
「宮地くん…?」
「そんなこと気にしなくていいから。頼むから、心配させんな……!」
私の背中に回った腕に力がこもる。私もその腰に腕をまわした。
「…ごめんね?」
「…許さん」
「え」
ぱたん、と体が押し倒される。幸か不幸か、ここはベッドの上で。
「ちょ、ちょ、ちょ!私貧血で…!」
「うるせえ」
頭では今はまずいと思っても、そのキスに応えてしまう。
やっぱり、毒舌で、横暴で、でも優しい彼からはそう簡単には逃れられないみたいです。
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