月が見ている | ナノ



夏休みに入ると同時に、秀徳は1週間の合宿に入った。もちろんマネージャーである私も一緒に。

夕食の片付けを終えて部屋に戻ろうとすると、ベランダに誰かいるのに気がついた。和成だった。

「なーにしてんのっ」

「うおわっ!?」

暗闇の中でベランダの手すりに肘をかけて、ぼんやり外を見ていた彼に声をかけると、必要以上に驚かれた。

「お前か…驚かせんなよまじー」

和成と付き合い出して間もなく1ヶ月になろうとしている。選手とマネージャーという関係上、私達が付き合っていることは緑間くん以外の部員は知らなかった。

そんなんだから、人前では一緒にいられないし、オフもないからデートにもいけない。仕方がないことだとは分かっているけれど、やっぱり寂しい。

「おやおや、そんなに驚いて。何かいかがわしいことでも考えていましたかな?」

茶化したように言うと、うん、とやけにあっさりした返事がきた。

「どうやったらもっとお前と一緒にいられるか考えてた」

「…それ、いかがわしいの?」

「ちょっとね」

ばか、と笑って後ろから手を伸ばす。絡まった指は熱かった。

「手、冷たい」

「さっきまで洗い物してたからかな」

和成が振り返って、私の首筋に額を埋めた。カチューシャで上げてある前髪が頬をかすめてくすぐったい。

「…どうしたの」

手は繋がったまま、私もその頭に頬を寄せる。

「…充電」

「…そんなに私不足だった?」

髪からシャンプーの香りがする。肌もしっとりしてるし、お風呂上がりなのかな。私ずっと作業してたから汗かいてないかな。

「不足なんてもんじゃねーよ。もう欠乏してた。あとちょっとで生命に問題があるレベルで欠乏してた」

「なにそれ」

それを言うなら、私も和成足りなくてやばかったけどさ。

不意に和成が顔を上げた。視線がぶつかる。

目を閉じたらキスが落ちてきた。触れただけのキス。

「私もちょっと寂しかった」

「ちょっとかよ?」

「じゃあ、かなり」

「じゃあって、お前なあ」

みんな部屋に帰ってしまって、ベランダには二人だけ。誰も知らない。ただ、月だけが私達を見ている。


こんな風に人目を忍んで逢うのだって、悪くないかもしれないなんて思いながら、囚われた腕の中で目を閉じた。


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高尾100%様提出作品!

せっかく合宿なんだからお泊まりどきどきな雰囲気を出したかったのですが無理でした。

とっても楽しく書かせて頂きました〜!

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