「女の買い物は長いって言うけど、君のは特別だな」

 時計台の針を見上げながら、ブチャラティは難しげな顔をして歩く私に声をかけた。もちろんウィットのある軽い冗談であろうが、実際待ち合わせの時間から数時間経っているものの、腕にかかっているのは雑貨屋の小さな紙袋だけだった。
 目当てのものは、未だ見つからない。恋人の予定に振り回される休日も悪くない。そう彼は笑うけれど。

「んん〜、いいの見つからないんだよ……」
「首飾りか?」
「そう、結婚式の」

 いよいよ来週に迫った友人の結婚式。式を通しての主役は何と言っても花嫁だ。参列客は"ほどほど"に華やかな格好をしなくてはならない。
 元々カジュアルな格好が多く、そういったフォーマルな服にはそれほど縁がなかったのだ。頭を抱える私の隣に並びながら、ブチャラティはサンマルコ広場から見える通りへと方向を変える。カツッと底を鳴らす革靴の先を見て、慌てて同じく方向転換をした。

「あれっ、ちょっと、待ってよ!」
「ほら」

 足がもつれそうになった私の手を、ブチャラティに半ば引っ張るようにとられたら、蓋をした鍋のように口を噤む。強引さに最初こそ驚いたものの、今ではすっかりそれがお気に入りになってしまっていた。
 怒ったフリをしてもいいのだけれど、手は包んでくれる大きな手を、控え目に握りかえす。嫌がっていないよと伝えるように。もちろんどうせ全部分かってやっているのだから、この軽く笑みを浮かべるイタリアーノは恐ろしい。

 そして、ある高級そうなブティックの前でブチャラティは足を止めた。普段は尻ごみして入れないようなその佇まいに、握る手の力が強くなる。

「まさか、ここ……?」
「いつもと違う服を買うなら、いつもと違う店じゃあなきゃな」
「え、ええ〜〜……っ」

 迷いがないブチャラティに、再び手を引かれて店の中へ入ってから、本当に目の回るような展開だった。店員の前にぽんと無防備に出されたあと、着せ替え人形のように服を着せられる。
 次々と選ぶ男、次々と着替える私。大人しくフィッティングルームでのファッションショーを強いられている中、首飾りを買いに来たんだけど、とは楽しそうな様子を見ると言えなかった。



「つ、疲れた……!」
「あっはは、お疲れ様だ」
「も、もォーーっ、あっブローノ払っちゃったの?!」

 服が決まったころにはもうへとへとになっていた。
 自分の服に着替えなおして試着室から出たら、彼の腕にかかっている紙袋に思わず目を丸くする。払ってもらうつもりなんてなかったのに、と財布を出そうとするのを先に店から出る仕草で制して、ブチャラティはまた笑った。
 こうなるともう言うことは聞いてくれない。

「というか、首飾りがまだ……」

 慌てて広い背中を追いかけてブティックから出る。本来も目的が果たされていないことに気付い声を上げたら、言葉すら最後まで言わせてくれなかった。
 振り返ったブチャラティが腕を軽く振りかぶる。

「ほら、行くぞ」
「えっ、何、わあっ!」

 思わず反射的にキャッチした。金属のしゃらりとしたきらびやかな音がする。
 眩しい夕陽に視界をつぶされながら、手のひらで光るチェーンはしっかりと目に焼く。カットされた宝石がきらきらと幾度も瞬く。きれい、と無意識のうちに声が呟いて、今一番見たいブチャラティが逆行でよく見えなくなってしまった。

 今、どんな顔をしているの。
 聞いても、たぶん答えてはくれない。

「あ、……ありが、とう、ブローノ……!」

 驚きで萎縮したような響きで、それでもとびきりの喜びを込めてそう彼に言った。やっぱりよく見えない。影に覆われて西日を背負う、そのシルエットだけで愛しさが込み上げる。
 ドキドキしている。映画のクライマックスシーンのように、とてもとても。


「ずっとそれが聞きたかった」

 ああ本当に、私のイタリアーノは恐ろしい!







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キリちゃんに幹部夢書いていただきました!!(*>ω<*)
なにこれ!!可愛い!!!
貢ぎラティとか威力ありすぎやろ//////
長時間の買い物に付き合ってくれる幹部とか惚れ直すしかないだろォォ〜〜〜キリちゃん本当私のツボわかってる//////
驚く事に……これ名前変換ないんだぜ………なのにこの手に取るようにわかるヒロインの心境と二人に密度(震)
どうもありがとうございました〜♪♪°+:.(っ>ω<c).:+°


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