「松本副隊長は居られますか、書類を」
「…ああ、そこに置いとけ、俺が渡しておく。」

市丸が死んで以来、松本は元気が無い。俺や阿散井や他の奴らの前では笑顔を見せているが、それもひどくぎこちなかった。上手く笑えなくなるほど市丸は松本の中で大きな存在だったんだろう。もしかしたら、俺が今まで知っていた笑顔も嘘だったのかもしれない。皆と笑いながらもどこかで市丸の事を考えていたのかもしれない。一番近くにいる部下の変化にさえ気付いてやれない俺は隊長失格だ。

飛ばされた空座町で何があったのか良くは分からない。ただ市丸が裏切ったのは松本の為であったというのだけは松本本人から聞いた。市丸は長い間、松本の大切な何かを取り返す、ただそれだけのために心血を注いできた。最期は結局果ててしまって、松本を泣かして、あいつのやりたかった事なんて全然わかんねーけど、ひとつだけは分かる。市丸は藍染の味方でも俺たちの味方でも一護たちの味方でも自分自身の味方でも無かった。あいつの全ては松本の味方だった。松本の為だけに死神になった。あいつの生涯は全て、松本のものだったんだ。藍染の下についてここまで来る間やめてしまおうと思わなかったのもすべて、松本を愛し続けていたからだった。それほどまでに市丸は。


「入るぞ、松本」
「あ、隊長…」
「…松本、景気付けに酒でもどうだ、奢るぞ?」
「あは、隊長いっつも私に酒飲むなって言うくせにー」

今度は飲めって言うんですね、と言う寂しそうな横顔が不謹慎にも綺麗で俺はすこし驚いた。こいつは俺の知らないところで市丸の事を想い続けていたのかもしれない。信じて、信じ続けていたのかもしれない。

「ねえ、隊長」
「…なんだ」
「やっぱり、信じなきゃ良かったんですよね、あたし」
「…………」
「憎んでれば、こんなことにはなんなかった。ギンがあたしを守ろうとしていたなんて、知らなければ幸せだったのに、」

ぼろぼろと涙が溢れて胸元のネックレスを濡らしている。なあ、松本。毎日付けてるそのネックレス、誰が……

「でも、出来なかった!ギンがご免な、なんて言うから!あいつ分かってて言ったんですよ!ホント…たち悪……」
「松本」
「あたしの人生最初から最期までそっくりそのままあいつに取られちゃって、もう」
「松本!」
「………っ、」
「お前がなんて言ってもお前は十番隊の副隊長だ。たまには職務を全うしろ」
「…隊長」

今度は涙が俺の手を濡らした。本当にこいつは…図体ばっかでかくて駄目だな。俺の身にもなってみろ。


「隊長、今だけで良いですから、隊長の胸貸してくださいよ」

「……しかたねーな」


泣いたらまた、一緒に仕事をしよう。俺だってまたお前に救われたんだから。確かに仕事も真面目にしないし、いつもふらふらしてばっかだが、俺はお前を嫌いじゃない。お前が泣くなら胸くらい貸してやるから。


「俺が隊長でお前が副隊長。今まで通りだ」



(たとえば君が泣くのなら)

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乱菊+日番谷が大好きです。恋愛感情じゃないけど乱菊さんも日番谷隊長もお互いを大事に思ってるところが好き。


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