*「夏目友人帳」の6巻に収録されている読み切り「まなびやの隅」より、菅先生と野田さんのその後。
「卒業、おめでとう。」
「…菅先生。」
生徒と教師でいると誓ったあの日から、跳ぶように年月は過ぎて、いつしか私も卒業する年になった。
大学もそこそこの難関私立に決まった。
「桜、咲いたなあ」
「ふふ、良かった。」
「綺麗だ…」
先生がそんなふうに言うものだから、どきりとした。確かにただの生徒でいると言ったけれど、先生を想い続けてるのには変わり無い。
「人間って勝手ですよね、」
「…ん?」
「卒業式の時には、その日咲いてほしいって思うくせに、入学式の時にも咲いて欲しいと思うなんて。」
「はは、」
先生が笑う。まだ五分咲き位の桜がいっそうほころんだ気がした。
「人間なんて、勝手でいいんじゃないか?」
「それぞれが幸せになりたいって願えば均等に幸せは訪れる。」
「ヒトの幸せなんて願うから均衡が崩れるんだ。」
「…先生、それ歪んでますよ。」
だけどなんだかその言葉が妙に先生らしくて、笑ってしまった。
「…俺は、俺の幸せを願う。」
「だから、野田」
「これからも、俺と一緒に居てくれるかい?」
「…はい。」
桜の花はみるみるほころぶ。これならまた入学式に満開の桜の下で笑えるだろう。
二人一緒に。
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緑川さんの読み切りだいすきです