静にはずっと、仕合わせで居て欲しかった。かつてあった出来事も全て彼女には隠し通して、いつまでも純白で居て欲しかったのだ。気の置ける人に遺書を託し、何度も何度も静には黙っておいて欲しいと頼み込んだ。それで良かった筈だった。全て上手く行くと思っていた。それなのに、私が自刃してからというもの静は泣いてばかりだった。目覚めれば泣き、昼飯を並べては泣き、布団に入れば泣いた。来る日も来る日も静は泣いてばかり。涙が渇れてしまうのではないかと思うほどに泣いていた。

(静、もう…)

(もう…泣き止んでくれ)


もう良い。私のために泣いてくれなくたって良い。忘れてしまって良い。だから、笑って欲しい。
そんなことを言ったって、全て私の勝手が静を哀しませているんだということくらい分かっていた。それでも私にはただ願う事くらいしかできなかったのだ。


1年経って2年経って、静は泣かなくなった。もう私が居なくても笑えるのだと思うとまた平生の勝手が出てきた。私はまだこんなにも静を愛しているのに、彼女は私を忘れるのか、と。私はどうにも色恋に弱いのだ。いつも回りが見えなくなってしまう。

(静、)

もう私は要らないのか?
私と居たことは忘れてしまったのか?

あんなに泣かないで欲しいと思っていたのに。静が笑うようになってしまうと寂しい。なんとも勝手な都合だった。そして次第に私は早く静に会いたいと思い始めた。手放したのはこちらなのに、だ。

(静、)
(早く此方に)

「来…」

ふわり、と静が笑った。
そうか私はずっと静の笑顔が好きだったのだ。だから静が笑えるのなら他には何も要らない。ゆっくり生きて気が済んだら会いに来てくれれば良い。それまで待っているから、ずっと待っているから。


「私も必ずそちらに行きますから、もう少し待っていて下さいね」

遺影に向かって静は微笑んでいた。



(恋は罪悪)

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先生は嫉妬深いイメージですよね。


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