しとしと…

夕方から降りだした雨は、乾いたコンクリートを湿らせ、独特の香りを漂わせていた。
昔ながらの唐傘を差して歩く望の足元はもうだいぶ濡れてしまっていた。
服や靴が汚れるのにいい気はしないが、雨自体はそう嫌いではない。
滴の落ちる様を見ながら彼の心は少なからず踊っていた。
帰り道をもう半ば過ぎた辺りで、道の端に誰かが座っているのが見えてきた。もちろん傘は差していない。故に頭から足先までびしょ濡れである。
近づくにつれてその影の正体が分かってきた。

「また貴女は…こんなところに座り込んで。」
「あら、先生。」

彼女は、望が担任をしている二年へ組の生徒の一人、風浦可符香だった。
彼女の行動には不可解な点が多く、望も少し手を焼いていた。

「危ないじゃないですか。」
「…そうですか?」
「そうですよ。」

大丈夫ですよ?と望を見上げて首を傾げる可符香の言葉に呆れてため息をつく。しかしこのままでは確実に風邪をひくと思い直し、彼女の頭の上に傘を差し出した。

「…何となく、先生が通る気がしたんです。」

ぽつりとそう言って可符香は笑った。望は余計に呆れてしまった。

「何となく…って。通らなかったらどうするつもりだったんです?」
「通るまでここに居ました。」
「だから…それでももし来なかったら…!」

「でも先生…来ましたよ?」

雨が小降りになってきた。この分ならもう少しでやみそうだ。望は可符香の手を引っ張ると、彼女を立ち上がらせて自分の傘に入れた。

「ああ、もうこんなに冷えてしまって…なんて無茶をするんです、貴女は!」
「…はい」
「ほら、もう少しこちらによってください、これ以上濡れたら大変ですよ」
「はい。」
「貴女の家に行って貴女がバスルームに入るまで見届けますよ、でないとまたこんなことになっては困りますからね」
「せんせい、」
「口答えは聞きません!」





「ありがとうございます。」


こうしてまた今年も、本格的な夏がやってくる。



(雨の香りに溶け込む気持ち)

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友達に貰った素敵絵から派生した小説。





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