「リーバー班長?聴いています?」
「えーあーすんません、聴いてなかったです…」


俺がもしクロス元帥なら今の状況を最大限にエンジョイする方法を何パターンも知っていただろう。でも残念ながら俺はクロス元帥では無いし、いくらなんでも相手が手強過ぎる。
俺の目の前ですっかり酔っ払ってるのは室長のお世話役ことブリジット・フェイ補佐官だ。普段はクールで少し近寄り難い印象もあるがそんなのは形無しなくらい酔っている。そりゃあ誰だってたまにはハメを外したくなる。最初は俺も室長の愚痴を肴に飲んでいたんだが、流石に二時間もすればそれも尽きた。しかし補佐官は違う。
次から次から出てくる室長の話。悪口と言うより良く分からない話もどんどん飛び出す。この人ある意味すごいな…。


「まったく室長ったらろくに飲む人間も居ないのに高い紅茶を開けたりして」
「…はあ」


どうして俺がこんな目にあってるのかと言うと、それは二時間半前珍しく俺を訪ねてきた室長が原因だ。

「あのねリーバーくん、ちょっとブリジットの相手をして欲しいんだ」
「…はい?」

最近疲れてるみたいで、と言う室長にだったら俺なんかじゃなくてアンタがしたら良いじゃないですかと言う代わりにこう言ってやった。


「まあ、確かに四六時中室長の世話してたら疲れますよね」


「…うん。ブリジット僕のこと嫌いみたいだからさ、リーバーくん頼むよ」

冗談のつもりで言ったのに室長は何だか泣きそうな顔で笑っていた。結局俺は室長の願いを受け入れ、補佐官を誘って酒を飲むことになったんだ。室長が「これ飲んでね」と渡してきた酒はすごく高い良いもので、美味かった。


多分室長は補佐官を好きなんだろう。今まで妹だけのことをひたすら思って来た室長は遅すぎる恋をした。でもそんなことは補佐官の知ることじゃない。彼女はこの酒の送り主さえ知らないんだ。


「…ホントにこの前なんか疲れたからもう寝ようなんて言って仕事が終わって無いのに止めてしまって、」

室長への愚痴は留まる事を知らない。そしてお酒もどんどん減って行く。

「でも次の日にはちゃんと終わらせてて」
「…あの、補佐官?」
「……良く考えると朝やったのかしら」
「それくらいに、」
「私を邪魔者扱いして…」


「室長ったらよっぽど私が嫌いなんだわ。」


…え?今なんて?
泣きそうな顔がさっきの室長にそっくりでやっと気がついた。この人も多分室長が好きなんだ。これはきっと好きなのに受け入れてもらえないと哀しむ表情。だから多分補佐官も…


「あれ?リーバーくんたちまだ飲んでたの?」
「しっ室長…!」
「うわ…随分酔わしたね…どうやったの?」
「どうやったって、」

ほとんどアンタが酔わしたようなもんじゃないですか、という言葉をなんとか飲み込んで俺は室長を見る。
室長は苦笑しながら補佐官の所に歩み寄るとその手からグラスをどかした。

「ほら、ブリジットもうおしまい」
「まだ飲めます!」
「もう寝なくちゃダメだよ」
「まだ言いたいこともたくさん…!」

室長だと気が付かないのか、補佐官はまだ室長の話を続けようとしている。

そんな彼女を軽々と抱き上げ室長は立ち上がった。

「リーバーくん、ありがとうね」
「…は、い…」

「まだ寝ませ…ん、よ」
「はいはい」
「ふざけないで」
「はいはい」
「聴いてください、室長ったら…」

「続きは僕が聴いてあげるからね」


そのまま廊下の奥に消えて行く二人の姿がやけに綺麗で、俺も酔ってるんだと気がついた。



(ほどよくもつれたスピカ)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -