「随分とお食事が進まれませんね、室長」
「え…ああ、うん…」


ちょっと、と無理矢理笑顔を作るコムイにブリジットはため息を吐いた。いつもそうなのだ。この人はそうやって辛い事を全て一人で背負い込んで孤独になろうとする。なんのために室長補佐である自分が居るのかと問い詰めたいのを我慢してブリジットはフォークを動かした。

混乱極まり無い教団本部を出てからもう半年程経つ。上層部の命もあり、室長であるコムイは教団を離れ身を隠すことになった。もちろんコムイは拒否をしたが、前回のレベル4の教訓から真っ先に標的にされる室長を何処かへ隠すと言う案はすぐに可決されてしまった。敵に勘づかれぬよう少人数で、ということもありコムイの護衛には室長補佐のブリジットが抜擢されたのだった。


「教団を案じているのですね」
「!…バレてた?」
「分かりやすすぎです。」

ブリジットは食事を終え、ナプキンで口元を拭いた。

「案じている暇などありません」

「室長は室長ご自身を案じる事が最優先ですから」


ブリジットはそう言ってコムイを見た。宝石のような瞳がまっすぐコムイを映す。この至極優秀な補佐に初めて会った時は、まるでアンドロイドか何かのようだと思った。それなのに彼女はいつの間にかこんなにも自分の事を考えてくれる人間になっていた。それをきっと彼女自身は気付いて居ないのだろうけど。



「…で、」
「はい」
「どうしてこうなったの」
「…経費削減です。我慢してください」

食事を終えて改めて入った部屋はどう考えても一人分の作りだった。タオルやバスローブなどはフロントで貰えるが流石にベッドが1つでは洒落にならない。

「私たちが贅沢をするわけにはいきません」
「…それは分かってるけど……」
「大丈夫です、室長はベッドで御休みになって下さい」
「君はどうするの?」
「床か椅子で寝ます。」


本当にそうしかねない雰囲気にコムイは焦った。いくら補佐官だと言ってもブリジットは女性なのだ。女性を床に寝かせるわけにはいかない。


「じゃあブリジットがベッドを使いなよ、僕が床で寝るから」
「それはいけません!」
「どうして?」
「とにかく駄目です。ベッドで御休みください!」

強情なブリジットにとうとうコムイの方が折れた。彼はため息をつき、分かったよと苦笑いをする。


「それじゃあこうしよう」
「なんですか」
「君も、僕もベッドで寝よう」

「…えっ」



結局1つのベッドに二人で寝ることになってしまった。コムイの身体は長身だが細身であるため、なんとかベッドにおさまったのだ。

「ちょっと窮屈だけど床で寝るよりましだよね」
「…はあ…まあ、そうですわね」

「狭くてごめんねブリジット」
「いえ」

ふわりとブリジットの柔らかい髪が首筋に当たってコムイはこっそり微笑んだ。ブリジットもまたコムイの体温を感じてそっと目を閉じる。

そうして二人は朝まで仲良くひとつの毛布にくるまっていた。






(そうやって隙間を埋めてゆく)






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