早朝、リーバーは眠りに包まれた科学班を抜け出して食堂に来ていた。広い食堂はがらんと空いていて妙に寒く感じられる。その片隅に黒い背中が丸くなっているのが見えた。徹夜明けのぼんやりした頭でリーバーはそちらへ歩いて行った。近くなるにつれて霞んでいる目にもその姿がはっきりとしてきた。

「リナリー?」

小さな声で呟くが、眠っているリナリーには当然聞こえていない。リーバーは彼女を起こそうと思った。こんなところで寝ていては身体が痛くなるし、風邪を引くかもしれない。そんな生活になれきった科学班のメンバーならばさほど心配はしないが、リナリーは違う。肩を叩こうと手を伸ばした瞬間だった。

「たす、けて…」

リナリーのこもった声が聞こえた。リーバーはハッとしてリナリーを見た。体勢が崩れたせいで見えるようになった顔は涙を流している。

「…リナリ……?」
「助けて、助け…」

リナリーの白い手が机の上をもがくように這っている。リーバーは躊躇もせずにその手を掴んだ。一瞬強張った手はすぐに力をなくす。もう一方の手で包んでやるとリナリーの表情が少し緩んだ。
夢の中でも闘っているんだろうか。そう思うと身体中がきゅっと痛むような気がした。無理矢理ここに連れて来られて無茶苦茶にされて、兄の人生まで奪われた。そんな運命を背負うにはリナリーはまだ若過ぎる。リナリーの隣に座って手を握っていたら涙がこぼれそうになった。自分が変わってやれれば良いのにと思うけれど、エクソシストの気持ちなんて凡人の自分には分からない。

「リーバー班長…?」

急に名前を呼ばれてリーバーはびくりと身体を震わせた。そして握っていた手をぱっと放した。

「わ、悪い…リナリー…」

慌てて手を引っ込めるリーバーに、リナリーは首を振った。

「助けてくれたの、リーバー班長だったのね…」
「え?」
「手、握っててくれて嬉しかった」
「…そう、か」

リナリーは身体を起こしてリーバーの手をもう一度握った。

「班長の手、あったかい」
「リナリーは冷たいな。身体冷えたんじゃないか?毛布持ってこようか」
「ふふふ、リーバー班長、兄さんみたい」
「えっ、それはちょっと嫌だな」
「ふふっ、嘘よ」

二人きりの食堂に朝の日差しが明るく入り込んでいた。


(世界でいちばん正しい病)


title:ごめんねママ




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