主役はいつだって彼女と彼だった。安っぽい生地のマントに身を包んだ彼女はやはりいつものように輝いていたし、その効果音を付けるなら「キラキラ」であろう笑顔はいつものように彼に向けられていた。

世間はハロウィンなどという外国から輸入されたものの、未だクリスマス程の位置を占められない曖昧なイベントに浮き足立っていた。そんなイベント、関係の無いところでは完全にスルーされていそうではあるが我がSOS団ともなれば仮装は絶対であり、人によっては団長からの細かい指定を受けていた。ちなみに僕は「古泉くんはかっこいいから何をやっても似合うわよ」と有難いお言葉を賜り、結果としては彼女の興味から大きく逸れてしまうことになった。

「トリックオアトリート!」

魔女の帽子を被った彼女が楽しそうに言う。僕は笑顔でお菓子を差し出した。流石古泉くん、分かってるわね〜と彼女は満足げに言った。いつもそうだ。僕は彼女に及第点をもらえる。だけどそれはただの及第点であってそれ以上良い結果にはならない。どんなに頑張ったって評価はAのまま、決してSにはならなかった。

それから、彼女の思いつきで仮装した格好のまま校内の生徒にお菓子を配ることになった。頭から足の先まで包帯に身を包んでいた彼は精一杯の反論を彼女に浴びせたが、結局その姿でお菓子を配るはめになってしまった。

しばらくお菓子を配っていると手持ちのお菓子が無くなってしまったので僕は部室に予備の物を取りに行った。扉を開けると窓から眩しい程西日が差し込んでいた。ふいに彼女が着ていたマントの裏地のオレンジを思い出す。
「涼宮さん、好きです。どうしようもなく、あなたが好きです。」たったそれだけのことを言えたならどれだけ楽になっただろう。けれど、彼女を観察しその世界の均衡を保たなくてはいけない僕が進んでその均衡を破るわけにはいかなくて、いつだって僕は彼女を見ていることしかできないのだ。

魔女の隣に立つのはドラキュラではなく、包帯男がふさわしい。たとえ、どんな姿をしていても僕は彼女の隣には立てないのだろうけれど。じわじわと瞳が西日に侵食されて僕は思わず涙を流した。

(ぼくのかみさま)
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title:ごめんねママ(一人称変更)

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