紫色の短い髪が揺れている。制服の袖を肩まで上げた戦場ヶ原は楽しそうに芝生の上を跳ねていた。昼休み、誰もいない校舎の裏庭で戦場ヶ原とふたりきり。弁当を置いたままどっかから引いてきたホースを繋いで水を撒いた。きらきらと光る水滴か眩しい。

「阿良々木くん、ほら」
「おお!虹」

見惚れていると思いっきり水をかけられた。ぶは、と思わず大きく息を吐く。何すんだよ、と言おうとして止めた。戦場ヶ原がすごく楽しそうだったから。

「戦場ヶ原」
「なあに、阿良々木くん」
「誕生日おめでとう」
「ああ、そうね…。ありがとう」
「好きだよ」

戦場ヶ原は意外そうな顔をしていた。茶化すでもなく、変に照れるでもなく。ただじいっと俺を見ていた。

「今年も、逢えないでしょうね」
「…?ああ」

織姫と彦星か。戦場ヶ原はちょっとだけ目を伏せてそれからもう一度俺を見た。さわさわと夏の風が戦場ヶ原の髪の間を通り抜けていく。今日は夕方頃から雨だって言っていた。今はこんなに晴れてるのにな。

「ありがとう、阿良々木くん。阿良々木くんが一年に一度、しかも晴れてなくちゃ会いに来れないようなヘタレでなくて良かったわ」
「そりゃどうも」

初めの頃ほど棘の無い柔らかい物言いにやっぱり戦場ヶ原も変わったんだなと思う。艶々輝く戦場ヶ原の髪に触れたくてそっと手を伸ばした。

「なに?」
「いや、何でも無いけどさ」
「今日、うちにお父さんは居ないのだけれど」
「ふーん」
「誕生日なのに、よ?阿良々木くん」
「うん…えっ!?お、お前、まさか」

焦る僕を涼しい顔でかわして戦場ヶ原は嘘よと笑った。いつかこいつの傷が癒えたならそういう覚悟は出来ているけれど、今はまだ焦らなくても良いように思う。ずっと、大切にするから。
ポケットに忍ばせてあるプレゼントを突然戦場ヶ原の目の前に差し出したらこいつはどんな顔するだろうか。何か憎まれ口を叩いて、それで、大切にしてくれるかな。



(何億光年先の距離でも、こうやって指先一つで繋げるんだから、)

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ひたぎさん誕生日おめでとうございます!デレた後を書こうとしたらキャラが迷子になりました…。

title:ごめんねママ


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