ああ、綺麗だと私は思った。彼女は本当に綺麗になった。師匠の家に居た、長い間一緒に過ごしたあの幼い少女だったとはとても思えない。彼女は綺麗になった。その彼女を今からよごさなくてはならない、私のこの手で、傷付けなくてはならない。こんな事、貴方にしか頼めませんとあんな眼で言われたら断れるわけが無いではないか。あれは師匠の罪で、私の罪だ。しかし彼女の罪では無い。師匠は自分の娘に罪を刻んだ。彼女はその日からそれを背負って隠して生きてきた。暗がりで彼女が上着を脱ぐ。白い肌が月明かりに煌々と照らされていた。不謹慎だとは思うが、その背中に刻まれた赤い印は目を見張るほどに美しかった。
本当にいいのか、と聞くと短くお願いしますと返ってくる。私は彼女の背後で頷いた。手袋の端を引くと布の擦れる音がした。それを聞いて彼女はひくりと肩を震わす。ああなんて残酷な女だ、私にこんなことをさせるなんて。彼女の背中を焼いた記憶はきっと一生消えないだろう。じわじわと罪を消すために罪を犯す私はなんて愚かなんだろう。これは罰か。錬金術師とは名ばかりの殺戮兵器に成り下がった私への罰なのか。

「く、そ…!こんなこと、出来るか…!」
「君の背中を焼くなんて、できるわけ…っ」

暗闇の中で彼女は笑っていた。一瞬壊れてしまったのかと思った。私が壊してしまったのかと思った。彼女は笑って「やって頂かなければ困ります」と諦めたように言った。そうか、辛いのは私ではなく、彼女の方か。全てを背負っているのは私じゃなく彼女の方だ。

(怨みますよ、師匠)

私の愛しい彼女にこんな物を刻んだことを。死んだ人間を呪ったってどうにもならないのは分かっている。私は唇を強く噛んだ。

「少し我慢していたまえ」

ぼうっと焔が舞い上がった。彼女の押し殺した悲鳴が聞こえる。目を塞いでしまいたかった。しかし私は終始彼女の背中が燃えて行くのを見つめていた。それはまた恐ろしいほどに美しい光景だった。

(汚れた世界はぼくが壊すから)
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ロイアイの日なので。
しかし…暗いし気持ち悪いですね…すみません…

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