*二章反ばら

「おー見える見える〜。見えてる?野ばらちゃーん」
「もう…ちょい…っ!」
「ほらっ」
「わ、ちょっと!」

連勝は軽々と野ばらを持ち上げた。初めは嫌そうに暴れていた野ばらだったが、日食の様子が見えると途端に静かになる。そういうとこ、女の子だよなあと連勝は思う。金色の太陽がゆっくりと欠けてついに環になった。ふわりと風が吹いて野ばらのスカートが揺らめいた。

「ホントに重なるのね…。指輪みたい」
「きゃー野ばらちゃんのおませさん〜」
「…殴るわよ」

空に浮かんだ金色の環は野ばらの言うとおり指輪のようで、日食グラスを一心に覗く野ばらを連勝は見つめていた。野ばらはまだ指輪に憧れるような年なのだ、とふいに思ったのだ。自分はもう指輪などとは縁遠い年になってしまったというのに。自然とため息が漏れる。随分と長い間離れて居たのだと改めて痛感させられてしまった。
今だってすっかりおじさんなのに、野ばらが指輪をもらうような年になったら、完全に彼女の父親のような年になってしまう。そう思うと少しだけ前世が恨めしくなった。

(そんなおっさんから指輪貰っても嬉しくないよなあ…)

まあもともと俺なんかに貰っても嬉しくないだろうけど。今に転生する前の野ばらのことを考えそうになって連勝はぐっと堪えた。すると連勝の元から下りた野ばらが隣でふっと呟いた。



「…なんて、今の私には指輪なんて早いわよねぇ」

グラスを覗いたままの瞳があまりに淋しそうで。つらいのは自分だけじゃ、残された方だけじゃ無かったのだと連勝は思った。野ばらも自分と同じくらい(いや、それよりもっと)淋しかったんだろう。

「そんなこと、言うな」
「え…?」
「早いことなんかない、いつ別れが来るかなんてわかんないんだ、俺たちは、」
「反ノ塚?」

ひた、と腕を掴まれて連勝は我に返った。小さな野ばらは焦ったような顔で連勝を見つめている。ああ、悪いと笑って誤魔化そうとすると「反ノ塚」とまた心配そうに呼ばれた。護られてばかりで、野ばらにばかり気を使わせて全く俺はどうしようもないな、と連勝は思う。だから少しでも彼女を助けられたなら、不安を取り除いてやれるなら。


「野ばらちゃん、今日は学校迎えに行ってい?」
「え?…ええ。」
「そしたらさ、買いに行こう」
「…何を?」
「ゆびわ。」

300年も待てない。先祖返りには年月なんて関係ないかもしれないけど、今の俺が、今の野ばらに渡したい。重なっていた太陽と月が少しずつ離れてゆく。あんな風に離れ離れになってしまっては寂しいから。例えまた離れても今日のことを思い出して欲しいから。
奮発しちゃうよー、俺。と言うと野ばらは少し嬉しそうに笑った。

(付かず離れず)

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TwitterでRTして頂いたので書いちゃいました^//^金環日食ネタでした\(^o^)/

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