寂れた神社の壁の隙間から薄く朝陽が射していた。傍らに座っていた柊の細い髪が照らされてきらきらと輝いて見える。俺はそっと柊に向かって手を伸ばした。眠っていたのか、柊は反応を示さない(柊が眠るとは思えなかったが)。髪に触ろうと思った手はぼやけた視界の中で鈍って面に触れた。驚くほど簡単に面が外れ、閉じた長い睫毛の眼が覗いた。

「柊」

柊は膝の上に落ちた面を拾うでもなく、ただ眩しそうに陽の光に目を細めた。柊はあの頃、俺がまだ小さくて無力だった頃、と何も変わっていない。年も取らず、髪も伸びない。その間に俺は変わってしまった。汚いものを知り、強さも弱さも知った。

「柊」

もう一度呼ぶと柊は色素の薄い瞳で俺を捉えた。
ただ礼を言いたかっただけだったのだが、俺は柊に名前を与えてその身を縛った。俺についてきたことを柊は後悔しているかも知れない。しかしそれでも俺は彼女を式として得ることを望んだ。

「柊、私にはお前が必要だ」
「はい、主様」
「もしも私が死んだらお前も一緒に死んでくれるかい?」
「もちろんです」

面を戻そうとする手を遮って重い身体を無理矢理起こす。その薄桃色の唇にそっと自分のそれを重ね合わせた。


(きみのいない世界なんて知らないままでいい)

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title:彼女の為に泣いた




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