春の花は美しく咲き誇る。
花の美しさも、鮮やかな色も、魔人の目には上手く映らない。それでもきっと貴様ならその価値を教えてくれたのだろうな、そんな風に思うのはもう我輩が半分くらい人間になっているからじゃないかと思った。
とにかくあれの、ヤコの墓とやらの周りにはさまざまな花が競うように咲いていた。
我輩の一瞬をそうして共にしたヤコはやがて息をしなくなり、灰になり、小さな石の下に埋められた。
あれからもう随分と謎を喰っていないが、不思議と空腹は満たされている。ヤコと見たもの、聞いたもの、感じたものばかりが鮮やかで、そこから先は記憶に留まらないものばかりだった。我輩はずっともう一度ヤコに会う方法を考えている。魔界一の頭脳をもってしても叶わないほどの難題を最期に遺していったヤコを我輩も認めざるを得ない。
「しかしヤコ、我輩はもう飽きた」
ヤコの居ない人間界で謎を喰うことに。美しさの価値を知ることのない世界で生きることに。
「ヤコ。貴様に逢いたいぞ」
我輩はそうっと息をするのをやめた
(それでも君はいないので僕は呼吸をやめた)
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title:彼女の為に泣いた