*夏/目漱/石の夢十/夜、一/夜の女サイドのお話。本編に沿いつつ妄想もたくさん含まれます。苦手な方は読まないでください!
大丈夫な方のみどうぞ↓










枕元に男が腕を組んで座っていた。風のない夜の湖の底のような瞳をして見詰められていると不意に私の口から、もう死にます という文言が滑り出てきた。男はじいっと私を見回すと、そうかね、もう死ぬのかね、と上から此方を覗き込んで繰り返し聞く。死にますとも。はっきりと眼を開けてそう言えば男は眼を丸くして私の瞳を眺めた。男の瞳に映る私は大層鮮やかであった。それ故にその湖の底に沈んで仕舞うような気がした。

それから男は何度となく死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、と問うた。私はただひたすらに死にますと繰り返していた。男の背にある障子が薄明かるくなり始めた。

「私の顔が見えるかい」

男は焦ったように聞いた。私はそこに写っているじゃありませんか、と笑った。男は黙って枕の側へ伏していた顔を起こしまた腕組みをした。


「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」

変わらぬ調子でそう言うと、男はすぐさまいつ逢いに来るかね、と聞いてきた。山の際から赤い日が昇って、海の向こうに沈む。何度も何度もそれを繰り返す間、あなた、待っていられますか。男は黙って首を縦に動かした。

「百年待っていてください」

私の墓標の傍でずっと。そう言えば男はまた待っている、と頷いた。障子の隙間から白い光が射し込んでくる。私はゆっくり眼を閉じた。そして湖の底にゆるりと沈んでいった。

男は言われた通りの事を済ませて柔らかい苔の上で私を待っているようだった。私は虫になった。しかしその小さな羽では男の元へと飛んでゆけない。二つ目の冬で死んだ。次に私は猫になった。主人を置いて男の元へはゆけない。主人が死んでそれを追うように私も死んだ。それから私はツバメになった。男の元へと飛んでゆく途中に猟師に射たれて死んだ。星の破片に苔が生え始めた頃、私は百合になった。石の下から斜に男の元へと茎を伸ばし、胸の辺りで花を開かせた。溢れ出す香りに男は顔を寄せ、私の花弁にひとつ接吻を落とした。百年はもう来ていたのだった。


(いちや)

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またしても自己満足。
真珠貝を活かしたかったんですが…できず…><




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