面倒だという気持ちが全く無かった訳ではない。しかし14歳の私は何よりも自分の字に劣等感を覚えていた。許嫁殿と文通をしたいという気持ちよりも字が汚い事を隠したいと言う気持ちの方が勝っていたのだ。だから双熾に代筆を頼んだ。奴なら完璧に許嫁殿との文通をこなすだろうと思っていた。

今更するには遅すぎる後悔だった。

机の中の引き出しには今でも大量の便箋が入っている。許嫁殿から初めて届いた手紙が柄にもなく嬉しくて、返事を書いたのだ。それから酷く落胆した。その頃は今よりももっと字が汚かったのだ。こんなものを許嫁殿に見せる気にはなれなかった。きっと許嫁殿は私を嫌いになるだろうと思った。
何度も何度も返事を書いた。その度に引き出しの奥底に隠すように手紙を入れた。双熾は許嫁殿と文通を続けているようだった。私の知らないところで、私の知らない許嫁殿を知っていく。悔しかったが、私の字は綺麗にならなかった。


机の中の便箋をいつぶりか取り出してみた。小さな頃から綴った許嫁殿への手紙はもう随分と溜まって引き出し一杯になっていた。今となってはもう遅い。出す宛などもはや無い。
その一枚を手にとって端から破った。好きになれない自分の字が、届かなかった許嫁殿への言葉が、どんどんと小さくなって行った。次々と便箋を破った。そして桜の花びら程になったそれを窓から外へ落とした。小さな紙切れは月明かりに照らされた夜を風に乗って流れてゆく。

(…後悔しても遅い、か)

決して届く事の無いそれを上から見下ろして私はため息をついた。


(君が知らない夜だ)

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文通の件の妄想。
凛々蝶←蜻蛉 が好きです。きっと双熾とくっつくんだろうけど、蜻蛉だって凛々蝶が好きだと思います。




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