僕の歌が歌えない。

さっちゃんが明確な人格ではなくなって、彼は僕の一部になった。時々出てくる事はあるけれど、普段は僕のどこかで眠っている。だから歌を作るのや歌うのはもっぱら僕の役目で、今まで作ってきた歌たちは全部僕のモノな筈なのに。歌を聞いた周りの人たちは皆「砂月っぽい」と言う。僕は僕の春ちゃんへの気持ちを歌に込めて精一杯歌っているのに、それがさっちゃんみたいだと言われ終いにはさっちゃんが歌ってるんだろうと言われる。最初は否定してきたけれど今ではもう本当のことが良く分からない。もしかしてさっちゃんが歌ってるんじゃないかとさえ思う。自分でも気付かないうちにさっちゃんと交代していて、僕は身体のどこかでそれを聞いているのかもしれない、なんて。

「那月くん、気分でも悪いですか?」
「…春ちゃん」

顔色が良くないです、と春ちゃんが僕を覗き込む。ぐわっと気持ち悪さが襲ってきて思わず口を押さえた。ねえ、やっぱり君もさっちゃんの歌と思っているのですか?

「僕の歌が歌えないんです」
「…え?」
「僕の歌なんて…最初から無かったんです」
「何言ってるんですか!那月くんの、良い歌いっぱいあります!」
「あれは全部さっちゃんの歌なんです、僕が歌ってるんじゃ無かったんです」
「そんな…!」

春ちゃんは言葉を詰まらせてしまった。可愛い眉毛をきゅっと寄せて辛そうな顔をしている。ごめんなさいって、謝んなきゃいけないのに、それなのに上手く喋れない。だって今は?今はちゃんと那月で居られてる?


「そんなこと無いです!」
「…春、ちゃん、?」
「どの曲も、私が那月くんと作りました!那月くんがどんなに練習してどんな思いでどんな風に歌うのかだって私知ってます!だから、そんな…那月くんの歌が無いなんて、言わないでください!」

泣きそうな顔で彼女は言った。小さな彼女が僕の事でこんなに一生懸命になってくれる。そんな春ちゃんが大好きで歌を作ってきたんだと改めて思い出した。

「春ちゃん、泣かないで」
「な、つき…くん?」

丸ごと抱き締めても腕が余る、そんな彼女に心配されるなんて僕はまだまだ弱い。だけどいつか、さっちゃんと同じくらい強く、春ちゃんを守れるようになるからそれまで見守っていてほしい。



「春ちゃん、僕は歌います」
「…那月くん」
「誰が何と言おうとこれは春ちゃんへの僕の歌です!」



(きみのためのうた)

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那月の曲って全部砂月っぽいと友人が言っていたところから思い付いたお話。
しかし…本命那月の人って少ないですね…




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