「アーデさん」。ミレイナの声が身体全体にじわりと染み渡った。健気で小さな彼女はきっとそのうちに自分の年を越して行くだろう。人間の時はすごく早くて僕には到底追い付けない。それでも、彼女と居たいと思った。それほどに彼女を好きだった。だからその瞬間などずっと先の事だと思っていたのだ。


「ミレイナ」
「はい」
「あなたは僕を置いて行かないでくれ」
「はい」

まだまだしてあげたいことがいっぱいあったんだ。だからそんなに簡単に目をつぶろうとしないでくれ。ミレイナは今にも閉じそうな目で僕を見上げている。

戦禍の中でミレイナが重傷を負ったのはついこの間の事だった。傍に付いていろと皆が言ってくれたから僕はずっと彼女の傍に居た。寝ることも食べることも息を吸うことさえも僕には必要無いから、出来る限り傍に居た。だけどミレイナは全然良くならなくて一日中ベットに横たわったままだった。そうして僕は日に日に弱って行く彼女をただ見つめていることしか出来なかった。

「ミレイナ」
「…はい」
「僕は人間のように簡単には死ねないけれど」
「…はい」
「いつか死ぬときが来たとしたなら、その時まであなたを好きでいる」
「………」
「あなた以外を好きになったりなんかしないから、心配しなくたって良い」
「アーデさん」

まどろっこしい言い方は得意じゃない筈なのに、刻一刻と迫る彼女の最期から目を反らしたくて仕方がない。ミレイナに名前を呼ばれて泣いているのに気が付いた。いつから僕はこんなに弱くなったんだろう。何も大切なものが無かった頃はこんなに弱く無かったのに。
弱々しいミレイナの腕が僕に伸びた。そうっと壊れないように握ると彼女は花のように笑った。苦しいだろうに、怖いだろうに、泣きたいだろうに、彼女は笑っていた。

「アーデさん、だいすき…です」


約束は果たされぬ。
ぱたりと力を無くしたミレイナは眠り姫のように美しくて僕は思わずため息をもらした。


(その眠りを看取るまで)

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人外×死ねた は素晴らしい。




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