夏目が名取の家から帰った後だった。名取は嬉しそうであり、くすぐったそうであり、また少し寂しそうでもあった。名取は最近人間らしい表情をするようになった。それを見ているだけで私は随分と幸せだったのだ。夏目を見送るとぐんと広くなった殺風景な部屋には私と名取の二人だけになった。壁の方を向いて立っていた私は背後に気配を感じて振り返った。
「柊」
ずうんとのし掛かるような重い声だった。すぐ後ろに立っているだけなのに妙な圧迫感を覚える。名取の影ですっぽりと覆われているような気がして妖ながら不気味に思った。
「いつの間にそんなに夏目と仲良くなったんだ?」
「………主様?」
「私の知らぬ間に会っているんじゃ無いだろうね」
「そんなことは」
「柊、お前は私の式だよ」
責めるような声色に殺気さえ感じる。今名取はどんな顔をしているのだろう。もう一度振り返ってみると奴は泣きそうな顔をしていた。面の一つ目で見つめると名取は情けない顔をした。
「お前は式である前に私の最初の友人だ」
「名取」
「だから……すまない」
やるせない、そんな瞳は小さな頃の名取のようだった。面の奥の私の表情が見えているようで少し怖かった。
「柊」
「はい」
「また少し寝る」
「はい」
「そこに居てくれ」
人間というのはまったく本当に、一人では生きて逝けないのだ。何故なのか私には理解出来ないが、名取のことなら少し分かる気がした。
(いきにくい)
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独占欲の塊な名取さん。