あの学習塾跡に拉致られて監禁された時の事を思い出した。あの時はホントに生命の危機を感じていた。僕はいつだって必死だった。戦場ヶ原の相手をするのは命懸けだから。だけど、そんな辛さとかそういうのを含めても戦場ヶ原が好きだから、こうして一緒に暮らしている。吸血鬼もどきの僕じゃなきゃあいつの相手は務まらないと自負しているし、僕のような性根の曲がった人間もあいつの傍じゃなきゃ生きられないと思う。

ゆっくりと時は過ぎて行き、戦場ヶ原も僕も随分と年をとった。そうは言っても僕が年をとるのは戦場ヶ原よりゆっくりで、最期までは一緒に居られないと悟った時、僕らは絶望した。そんなの分かっていたことなのに、それが近づくにつれて怖くなった。

「戦場ヶ原」
「なあに」
「お前、死ぬのか」
「………」
「僕より先に、死ぬ…のか」

口に出せばそれは明確なものに変わって行く。ああもう、何でだろうな。戦場ヶ原が僕を守ってくれると言ったとき、僕もこいつを守ろうと誓った。だけど、流石の僕も死からはこいつを守ってやれない。日に日に弱ってく戦場ヶ原を見るのはすごく恐ろしかった。中途半端な、鬼。

「どうしても寂しいと言うなら殺してあげるわよ?」
「ハハッ…そうだな。でもそれは無理だよ。言ったろ、僕は誰に殺されてもいいけどお前にだけは嫌だ。お前にそんな罪を犯させるのは絶対に…嫌だ」
「私だって嫌よ、私以外に阿良々木くんを殺させるなんて」
「そうか」
「そう、よ」

どこまでいっても戦場ヶ原は戦場ヶ原で僕は僕だった。互いに譲らない。どんなに戦場ヶ原を愛していても忍の事は許せない。だから状況が変わることは絶対に無かった。…無かったけれど。僕の身体はちぎれそうに痛い。戦場ヶ原との別れに悲鳴を上げていた。忍もきっと痛がってるだろうな。

「戦場ヶ原…」
「な、に…」
「心配しなくたって僕は誰にも殺されない。戦場ヶ原以外を好きになったりなんかしない。お前を裏切らない」
「…そう」

戦場ヶ原は僕をじいっと見つめて覚束ない様子で口を開いた。

「キスをしましょう、阿良々木くん」
「……ああ、」

唇を合わせると戦場ヶ原は満足そうに笑って耳元でぼそりと囁いた。戦場ヶ原の綺麗な瞳が閉じてゆく。二度と目覚めることのない眠りに落ちてゆく。一方の僕は情けなく涙をボロボロ落としてただただ戦場ヶ原の名前を呼んでいた。


(死んだりしようとなんか思わないことね、せいぜい幸せになりなさい、阿良々木くん)

それは戦場ヶ原ひたぎが僕に吐いた最期の毒舌だった。




(すべてやさしさ)




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