最初は那月さえ守れれば良かったのに、いつの間にかあの女がちらちら視界に入って来て、知らない内に大きな存在になっていた。人は誰でも生まれつき善だとでも言うように、あいつは全ての人間を信じている。純粋で、無垢で、どうしようもなく真っ直ぐだ。そりゃ、俺は砂月であって那月なのだからあいつを好きになるのは抗いようが無かった。

「砂月くん」
「……」
「砂月くん?」
「…なんだ」
「シワ、寄ってます、大丈夫ですか?」
「ああ…」

いちいち心配そうな顔して俺を覗き込んでくるこいつは救いようの無いくらいのお人好しで、つくづく呆れる。沢山傷付けたのに、それでも俺を心配してくるなんて相当馬鹿なんだろう。だってお前が好きなのは那月なんだろ?俺なんて居ない方が良いんだろう?そんなことは分かっているんだ。

「砂月くんが辛くないようにおまじない、しましょう」
「…あ?」

そういってあいつは俺の手を握る。ほっそい腕は全然力がなくて驚いた。こんな奴に、守られているのか、俺たちは。

「春歌」
「…え?あ、はい…何でしょう」
「そんな、驚くな」
「はい、すみません」

「…俺は、誰だ?言ってみろ」
「はい!砂月くんです!!」
「………っ」

躊躇わずに俺の名前を呼んでくる奴なんて多分こいつしか居ない。それが少しだけ嬉しくて、寂しい。那月を守るためだけに存在していたのに、俺はどんどん欲張りになる。…だけどそれは駄目だ。

「だから、今だけ、だ」
「…え?」

時が来たら消えるから、その時が来るまであと少しこのままで居させてほしい。お前を好きで居させてほしい。そう思うのも多分あいつのせいなんだろうな。


(捉えた春に寄り添う)


title:すなお


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