先程から謝罪を繰り返してばかりのティエリアにフェルトは優しいため息をもらした。重力のある場所に来るのは久しぶりで、少し不思議な感覚がある。ガラス張りの向こうで鮮やかな魚たちが無重力のように泳ぎ回っている。

「本当に良いのだろうか」
「良いんだよ」
「けれど」
「ミレイナはあなたが好きなんだから、応えてあげて」
「…………」

ティエリアは苦しそうな顔をした。自分のような人間でない存在でも良いと泣きそうな顔で言った彼女が何度も脳内で再生される。

「すまない、フェルト。あなたを置いて幸せになって」
「…ティエリア」
「僕は…」
「良いの。だってあなたはミレイナを幸せに出来る。それなのに彼女を不幸にしたら私はあなたを許さない」
「…………」

ティエリアはフェルトの華奢な身体を包んだ。こんな自分を愛してくれる人がいる。こんな自分の背中を押してくれる人がいる。今にも折れそうな身体で応援してくれる。ティエリアの腕に力が入った。

「フェルト」
「なあに」
「ありがとう」
「…うん」
「でも、僕はあなたを一人にしない。だから一人だなんて思わないで欲しい」
「ティエリアは優しいね」
「…え?」
「人間じゃないのに、人間より、優しいよ」

フェルトはふっと眼を閉じた。想っていたあの人はもう居ない。今はまだ進めないけれど新しい小さな気持ちも見えたから、きっとゆっくり忘れられる。
ぽろりと涙がひとつ落ちた。同時に水槽の魚が泡を吐く。まるで落ちた涙が上るかのように。フェルトはゆっくり眼を開けた。

「ティエリア、おめでとう。幸せになって」
「ありがとう。あなたも、幸せになって欲しい」
「うん」

妹のようなミレイナの笑顔が浮かぶ。大丈夫、あなたなら、あなたたちならきっと誰より幸せになるわ。彼以外も彼女以外も考えられない。
フェルトはティエリアの胸に手を置いて彼から離れた。ティエリアの瞳がゆらりと揺れる。それに気付かないふりをしてフェルトはもう一度「おめでとう」と呟いた。


(いつかきちんと忘れたい)

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支え合うティエリアとフェルト。ティエリアに不似合いな「あなた」呼びがとても好きです。

title:ごめんねママ

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