多軌が結婚した。
相手は他でもない、友人の田沼だった。晴れた日に小さな教会で行われた結婚式に俺も、ニャンコ先生も招待された。結婚式なんて初めてだから勝手が分からなくて塔子さんにいろいろ教えてもらった。柄にもなく緊張していたんだ。
多軌のウェディングドレス姿を見たときは言葉が出なくて、思わず黙り込んでしまった。今まで見た何よりも綺麗で、光っていて、目が離せなかった。

「田沼」
「おお、夏目」
「綺麗だな、多軌」
「ああ…俺も驚いたよ」
「女の人ってすごいんだな…」
「まったくだ」

田沼も少し頬を染めていた。でも、そうか。もう多軌は多軌じゃないし、田沼と呼べば二人とも振り返るようになったんだな。大切な友人の二人が家族になったってのは自分の事みたいに嬉しかった。周りに集まって来ていた妖たちも心なしか幸せそうに二人を見てる。わかるのかな、こいつらも。

「あ!夏目くん!ニャンコ先生も!」
「多軌…じゃない、田沼、あ…でもそれだと田沼とごっちゃになるな…」
「多軌でいいよ夏目くん。今まで通り」
「…そうか」

真っ白な多軌は人形みたいで、戸惑った。こういう時なんて言ったら良いんだろう。未だに俺には知らない事が多すぎる。

「…綺麗だぞ、多軌。驚いた」
「ええ?本当に?…田…じゃなくて要くんが選んでくれたの」
「へえ…田沼はすごいな」
「馬子にも衣装だぞ、小娘」
「こら、ニャンコ先生っ!」
「…うう…抱き付きたい」
「我慢しろ、多軌!」

わいわいやっていると西村と北本まで加わって大変な騒ぎになった。西村は泣き始めるし、それを止めようと北本が頑張って二人いっぺんに転んだ。
人の波にあてられて俺は一旦そこから離れた。腕から降りたニャンコ先生がのたのたと歩いてくる。料理のエビフライをくわえてるけど。

「なあ、ニャンコ先生」
「うん?」
「二人が幸せになって、俺はすごく嬉しいんだ。今日は良い日だ」


「だけど、なんでか多軌のウェディングドレス姿を見てると涙が止まらないんだ」

ぼろぼろと涙が落ちた。綺麗な多軌を思い出す度それは溢れてく。なんでだろう、幸せなのに。嬉しいのに。別人みたいな多軌を見ると胸が苦しくて息ができなくなりそうだ。

「へ…変なんだ、ニャンコ先生。どうしよう」
「夏目…お前」
「おかしいな、止まらない…これじゃあみんなに心配かける、早く…止めなきゃ」

「多軌が好きだと気付かなかったのか」
「…え?」

好き?俺が、多軌を?
意識した途端、ぶわっと涙が溢れて頬がぐしょぐしょになった。そうか、そうだったのか。こんなに哀しくなるのも、苦しいのも全部多軌が好きだったからか。強くて優しくて何度も俺を助けてくれた多軌が好きだったのか、俺は。

「こんな、気持ちなら、知りたくなかったよ…先生」
「………」
「でも、分かった。…俺は多軌が好きだ」

伝えられなくても遅くても、認めてやらないと、初めてのそれを。もしかしたら最初で最後かもしれない。

「夏目ー!どうした?」
「ああ、今行くよ」

いつかゆっくり忘れていくから、だから今だけ許して欲しい。綺麗な綺麗な多軌に恋する事を。


(さようならを用意するよ)

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こういうのも有りなんじゃないかと思って。多軌のウェディングドレス姿見てみたいです。

title:ごめんねママ





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